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ICTで「病児保育」が変わる! 病児保育ネット予約サービス「あずかるこちゃん」

「あずかるこちゃん」の施設マップ(イメージ)

編集部:もう、電話をかけなくてもいいわけですね!

園田:その通りです。ポイントは満室の施設について「キャンセル待ち」ができ、かつ、別の施設も予約しておけることです。もし、指定時間までにキャンセル待ちをしていた施設に空きが出た場合は、自動的に予約がその施設に移行し、もう一方の予約していた施設にはキャンセルの連絡が行われます。そしてキャンセルした施設においても、同様に他の人のキャンセル待ちが繰り上げられます。このようなICTを使った予約調整により、地域の病児保育施設全体で利用率が向上する仕組みになっています。また、「あずかるこちゃん」にはLINEを使用した問診票を用意しており、病児保育施設に入室する際の書類のやり取りの負担も軽減できます。これは施設側にとっても、入室する子どもの症状が事前にわかり、スムーズに受け入れができるメリットがあります。

園田:現在行っている実証試験でも、関係者の皆様からは「電話連絡が無くなって良かった」「24時間いつでも予約できるのはありがたい」「事前の情報入力が助かる」などの感想をいただいています。また、ビジネスモデルは保護者の利用は無料、病児保育施設あるいは市区町村からシステム利用料をもらうというものです。現状、病児保育施設の6〜7割が赤字であり、委託事業元である市区町村と契約することでシステムを運用していきたいと考えています。病児保育の充実は「子育て世代に魅力ある街づくり」をどう実現していくかという行政のミッションと一致しますし、市区町村と契約ができれば、そのエリアの保護者は全施設で「あずかるこちゃん」を利用可能になるためです。

 

「あずかるこちゃん」が生まれた経緯

編集部: 園田さんが、この取り組みを始められたきっかけは何だったのでしょうか?

園田: 病児保育に取り組むきっかけは、私が産婦人科医として現場で直面した「産後うつ」と「親による虐待」でした。そのような問題の解決には「生活を変えること」が必要ですが、医師(=病気を治す専門家)としての立場でできることは、本当に少ないことに気がついたのです。その悩みの中で出会ったのが、大学院で学んだ「公衆衛生」という学問でした。この学問は一言で言えば「社会全体の幸福度をいかに上げるか考える学問」であり、基本的に患者さんと一対一の関係になる現場の医師とは真逆の発想をもたらしてくれました。つまり「産後うつ」や「虐待」を解決するにあたり、「個人単位」ではなく、「社会全体」を変えることに取り組むというアイデアが生まれたのです。もう1つ、産婦人科医としてたくさんのお母さんたちに直接話を聞くことができたのですが、その時に強く感情を動かされたのが「子供が病気になるたびに仕事を休むことが増え、結果として会社を辞めることになった。とてもつらかった……」というお話でした。このことから「そもそも社会の構造がおかしいのではないか?」と考え、それを変えたいと思うようになったのです。さらに子どもを持つ友人の「病児保育施設は本当に使いづらい」という一言から「病児保育施設」の存在を知り、これが解決の鍵になると考えました。また、起業まで踏み切れたのは当時参加していたIHL(ヘルスケアリーダーシップ研究会)というNPOで、1年かけてベンチャーキャピタリストやIT企業の役員、医師、助産師、看護師、薬剤師といった素晴らしいメンバーと、この問題を検討する機会を得られたおかげです。