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離れていても、一緒に育児。「ちょっと見てて」を叶える、遠隔協同子育てロボット「ChiCaRo(ちかろ)」

本サービスのポイント
  • ChiCaRoは、離れた家族と一緒に子育てをするために生まれた遠隔操作ロボット
  • 遠隔操作で子どもと一緒に身体を使った遊びができるため、子どもが飽きずに楽しめる
  • 現在は、小児科や保育士と繋がれるシステムやAIカメラマン機能を開発中

「10分間だけでいいから、誰かに子どもの面倒を見てほしい!」。家事で手が離せないタイミングに、こんな気持ちになったママやパパは多いのではないでしょうか?核家族化が進み、共働きで育児を行う家庭が増える現在、両親だけでずっと子どもの面倒を見続けることは難しいのが現実です。そんな問題を解決してくれるアイテムが今回ご紹介する遠隔協同子育てロボット「ChiCaRo(チカロ)」です。画面を通して親戚や家族に子どもの面倒を見てもらうことはもちろん、子どもの発達レベルをレポートで教えてくれるといった機能も。そこで今回は「BabyTech® Award Japan 2021 研究・レポート部門」で優秀賞を獲得したChiCaRoの開発を行っている、株式会社ChiCaRoの代表・奥温子さん(以下、敬称略)に、ChiCaRoの魅力や特徴、開発秘話、今後の展開についてお話をうかがいました。

(お話を伺ったのは)

株式会社ChiCaRo
代表取締役社長 奥温子(おく・あつこ)様

テクノロジーを使って、みんなで子育てができる社会を

離れていても、ChiCaRoを通して子育てに関われる

編集部:本日は、よろしくお願い致します。さっそくですが、ChiCaRoのコンセプトについて教えていただけますか?

奥:ChiCaRo は、0~3歳児向けの遠隔育児支援ロボットで、両親が手を離せないタイミングなどに、遠く離れた親戚や友人に遠隔で子育てをサポートしてもらうことができます。他にも、発達支援システムを搭載しており、子どもがChiCaRoで遊ぶことで、話す力など各種能力を伸ばし、現在の発達状況のレポーティングもしてくれます。

編集部:子育てにおいて「ちょっと手が離せないから、誰かに見ていてほしい」といったタイミングはたくさんありますよね。離れて暮らす、親戚がボタン一つで来てくれるのは、とても心強いです!

奥:私たちもChiCaRoを開発していく際に、勉強して知ったのですが、人の長い歴史のなかで、育児とは本来、両親だけではなく、多くの人との関わり合いながら行ってきたものでした。それが今では、核家族化や孤立が進み、いきなり両親や片親だけで面倒を見なくてはならないようになっています。これは大きなストレスを感じて当然の状態なのです。

生物学的に見ると、両親だけもしくは、母親だけが子どもの面倒を見ること自体は異常

編集部:なるほど。世間的には、「親が我が子の面倒を見るのは当たり前」といった風潮がありますが、生物学的には今の状況の方が特殊なものなのですね。ChiCaRoは、ロボットをとおして、コミュニケーションを取る仕組みになっていますが、それ以外にも、タブレットを使ったビデオ電話など、遠方の親戚とコミュニケーションを取る方法はあると思います。どうして、ロボットという形を選ばれたのでしょうか?

奥:私たちは、「ロボットが間に入ることで愛情が増える」と考えています。自由に動き回る子どもたちに、ずっとタブレットの画面を見ていてもらうことは、そもそも集中力が続きません。人の形に近く、子どもが動いてもついてきてくれたり、ハンド機能でおままごとの相手もできるロボットを間に入れることで、飽きが来ませんし、ハグができたり、頭をなでたりできたりとロボット自体に対しても愛情をもって向かい合えるのだと思います。

編集部:なるほど、そんな効果もあるのですね。

奥:子どもたちにとって、ロボットはものでもなくペットでもない特別な存在なのではないでしょうか。利用者の方からは、「ChiCaRoと遊ぶようになってから、他のおもちゃに対する扱いも優しくなった」といった感想もいただいています。

ロボットという一緒に遊べる本体があるから、そこに愛情が生まれる

編集部:ありがとうございます。先程のお話にありましたChiCaRoの他の機能についても教えていただけますか?

奥:現在、開発中のものが多いのですが、ChiCaRoにはお子さんに振る舞いからその子の特徴を分析し、ChiCaRo自体が、子どもの力を伸ばすためにおすすめの遊びをセレクトし、様々の能力をレポートしてくれる機能などになります。

編集部:子どものどんな能力を分析しているのでしょうか?

奥:現段階では「話す力」「聞く力」「状況を判断する力」「理解する力」など、大きく分けて4つの項目の能力を測定しています。そして、例えば「理解する力」であれば、絵本やお絵かきクイズといったそれに関係している遊びを搭載された200種類以上の遊びの中からおすすめしてくれるんです。

子どもに合わせて遊びをセレクトしてくれる「チャイルドマインダーAI」

編集部:子育てをするママやパパ、特の一人目のお子さんを育てる方にとっては嬉しい機能ですね!

奥:他にも現在開発中の、保育士や小児科医と繋がれるリモートシッティング機能や、ChiCaRoに搭載されたAIがお子さんの可愛らしい表情を撮影してくれるAIカメラモードなどがあります。

編集部:今後のChiCaRoが楽しみですね!

働く母親にとって、本当に必要なものを詰め込んだ

編集部:ここからは、ChiCaRo開発の経緯についてお話をうかがっていけたらと思います。どのようなきっかけがあって、開発へと至ったのでしょか?

奥:ChiCaRoが生まれたのは、電気通信大学のとある研究室。そこに務める、新米ママ研究員の阿部という女性が、自身の研究分野である「ロボットと子どものインタラクション」というテーマを活かし、何かできないかと考えたのがきっかけです。

知られていない部分も多いかと思いますが、研究者って本当に大変な仕事なんです。昼夜問わず、土日も返上して研究をし、論文を出さなくてはならない。そんな環境のなかで、頼れる人がおらず、右も左も分からない状況での子育ては本当に大変だったと思います。

編集部:精神的にも肉体的にもきつそうですね。

奥:あるとき教授に悩みを語ったところ、「だったらそれを解決してくれるロボットを作ってみようよ」という話になり、それがChiCaRo開発のきっかけとなったのです。

働く母親として、本当に必要だとおもったことを機能として詰め込み、2019年にプレスリリースを出しました。はじめは売れるかわからなかったそうですが、ChiCaRoを発表してから、毎日のように問い合わせが続いたんです。いただいたメッセージの中には、「(子育てで忙殺されて)自分が自分でいられなくなりそう」「余裕がなくなってしまい、自分の子どもに怒鳴ってしまい、後で後悔してしまいます」といったママの悩みがたくさんありました。また、祖父母からのお申込みや、お父さんからの申込みもたくさんありましたね。

ChiCaRoのプロジェクトリーダーを務めている阿部さん

編集部:住まいや仕事で離れていても、子育てに関わりたい、お母さんの負担を減らしたい、という思いがうかがえますね。

奥:先程もお話しましたが、人間は生物学上、集団のなかで子育てをする生き物。現代の子育ては、水のなかで生活しろと言っているようなものなのです。戦後は、女性の社会進出が進みましたが、そのときに「これまで女性がやっていたことは誰がやるの?」という問題は取り残されてしまっている気がしますね。

編集部:開発にあたって工夫したポイントについて教えていただけますか?

奥:力加減を知らない小さな子どもが、押したり叩いたりしても大丈夫なよう、衝撃に強く、倒れにくいロボットにしました。また、子どもと同じ部屋にいても違和感がない、丸みをもったフォルムや優しい色合いのデザインにしています。

可愛らしいフォルムが特徴的

編集部:HPに掲載されている写真などでは、ロボットに服を着せているものもありましたね。そういった工夫できる「余白」があるのもChiCaRoの魅力の一つかと思いました。

奥:そうですね。完璧ではないからそこ、「(服がないと)寒いのかな?」とか、考えられる部分はあるのだと思います。

編集部:ありがとうございます。ChiCaRoを生み出すにあたって、大変だったポイントがあれば教えていただけますか?

奥:ロボットの開発部分ですね。ロボットづくりは、必要な専門スキルは多岐にわたり、何種類もの専門家が、ロボット本体やアプリケーション、サーバなど各種分野をカバーする必要があることから、「総合格闘技」に例えられることが多いんです。

編集部:ChiCaRoのなかに様々な機能が詰め込まれていますもんね。やりがいを感じたタイミングについても、教えていただけますか?

奥:ユーザーさんから喜びのお手紙をいただく時に「やっていて良かった」と感じますね。「悩みが解消された」「家族で楽しく子どもとの時間を過ごせるようになりました」といったメッセージを見ると、やっていて良かったなと感じます。

子育てを「みんなのもの」にして、家族の幸せに貢献したい

編集部:本日は、ありがとうございました。最後に今後の目標について教えていただけますか?

奥:ChiCaRoを通して、新しい方法で子育てをみんなでする社会づくりと、家族の幸せに貢献できたらと考えています。

編集部:より多くの大人が子育てに関わることで、子どもにとっても、両親にとっても良い影響がありそうですね。

ChiCaRoを通じて幸せな家庭を増やしていく

奥:子どもの自己肯定感や幸福度を上げる要因の一つに「自分が愛されているな」と感じる経験があります。ChiCaRoを通して、多くの大人から愛情を受ける経験は、両親の負担を減らすと共に、子どもの幸せにもつながるものだと考えています。

編集部:関わる人、みんなが幸せになれそうですね。本日は、どうもありがとうございました!

取材を終えて

お話のなかで印象的だったのが、「人は元々、両親だけ(または母親だけ)で、育児をしてきた生き物ではない」という点。こういった視点を持てば、現在の育児の在り方や、それにまつわる多くの問題について、原因や対処法が明確になってくるのではないでしょうか。生物学的な仕組みと現実のギャップを埋めてくれるのも、ChiCaRo魅力の一つなのかもしれません。今後も様々な機能がリリースされるようなので、そちらもお見逃しなく!

「ChiCaRo」 公式ホームページ
https://www.chicaro.co.jp/

(終わり)

取材・執筆:立岡美佐子(たておか・みさこ)

IT企業から、編集・出版業界に転職。現在は、フリーランスの編集者兼ライターとして旅やグルメ、ソーシャル系など幅広い分野で編集や執筆活動を行っております。
大事にしているのは「価値のある情報を、読者に面白く、わかりやすく伝えること」。
これまで『TRANSIT』『FRaU』『メトロミニッツ』など多数の雑誌制作に携わってきました。
ベビーテックは、「子どもの頃にこんなサービスや商品があれば!」と思うものとの出会いばかりで、毎回刺激をもらっています。趣味は、旅行と料理と合気道。