- 幼少期から海外の同年代とリアルタイムで交流をすることで、世界を身近に感じられる
- 事前・事後学習を充実させることで、一時のイベントで終わらず心に残る体験になる
- 友達を作って楽しく学ぶことで、主体性・探求心・SDGsマインドを育む
ITで育児をサポートする商品やサービスを広く集め表彰する、BabyTech® Award Japan。2021年の「学びと遊び」部門にて、優秀賞に輝いたのは、オンラインで日本の幼稚園や保育園を世界とつなげるサービス「EN-TRY(エントリー)」です。オンラインで世界とつながるサービスと言ってしまえばシンプルに聞こえますが、事前準備の期間をしっかりと設け、子どもたちの世界に対する好奇心をかき立てる仕組みがたくさん詰め込まれているのです!そこで今回は、EN-TRYを運営する株式会社シンクアロットの岡田ひかり(以下、敬称略)さんに、サービス概要や、開発の経緯、今後の展望についてお話をうかがいました。
(お話を伺ったのは)
株式会社シンクアロット
岡田ひかり(おかだ・ひかり)さん
子どものうちから世界とつながる体験ができる
編集部:本日はよろしくお願い致します。オンラインを使って海外の幼稚園や保育園と繋がれるEN-TRY世界交流、とても素敵ですね!コンセプトや魅力について教えてください。
岡田:よろしくお願いします。EN-TRY世界交流の目的は、オンラインでの「世界交流」を通じて、子どもたちの視野を広げること。感受性が豊かで偏見の少ない幼少期から、海外の同世代と交流を持つことは、様々な違いを知ると同時に、子どもたちの好奇心や多様性を尊重する心の素地を作る経験だと考えています。
また、オンライン交流だけではなく、相手の国や文化について楽しく学び、自己紹介をする事前プログラムを体験することで、実際にオンラインで交流したときにより密度の濃い時間を過ごすことができる仕組みになっています。
編集部:「子どもが小さいうちから、世界に触れさせたい!」と考えている親御さんや保育園の先生は多いと思いますが、実際には何をしたらいいのかわからないといったケースが多い気がします。そういった問題を解決してくれそうですね。
岡田:海外交流というと「まず英語から」と考えがちですが、言語はあくまでも意思疎通のツール。本来の目的は「世界には様々な国や文化があること」を知り、世界中の人々と楽しく交流することだと私たちは考えています。オンラインライブでは、マグーというパペットが通訳やガイドをして、リアルタイムのコミュニケーションを楽しめる仕組みとなっているので、安心して交流を楽しむことができますよ。
2ヶ月の事前準備期間が、交流をより深いものに
編集部:ここからはEN-TRYのプログラムの流れについて詳細を教えていただけたらと思います。オンライン交流の前後にはどんなプログラムがあるのでしょうか?
岡田:EN-TRY世界交流の流れは下記の、「マッチング」「相手を知る」「一緒に遊ぶ(※オンラインライブ)」「振り返り、思い出す」の4ステップです。
STEP1:マッチング
園の希望に合わせて交流先やライブ内容を一緒に企画する(事前の先生同士のコミュニケーションもサポート)
STEP2:相手を知る
動いたり声を出したりできる楽しい動画で交流国について学び、交流先の園とビデオレター交換し、ライブ前にお互いのことを知る。さらに、日常で異文化を取り入れるアイデア集をもとに園での活動にも取り入れていく
STEP3:一緒に遊ぶ
実際にオンラインライブ(40分程)を行い、ゲームやクイズなどを楽しむ。言葉の問題もパペットが楽しくガイドすることで解決!
STEP4:振り返り、思い出す
教材やお便りを使って、園や自宅で交流した国や友人のことを振り返ることで、体験を記憶に強く根付かせる。継続的な交流もできる
編集部:盛り沢山ですね!ただ交流するのではなく、「相手を知る」期間があるところがとても良いと思いました。
岡田:はい、STEP2の「相手を知る」期間は長めの時間(園の方針にもよるが2ヶ月程が多い)を取るようにしています。私たちの目的は、子どもたちが、海外に関心を持って、世界を知り、世界観を広げること。40分のライブの前にどれだけ相手について興味を持って調べたかが、オンライン交流を濃密にし、その後も世界のできごとを自分事化し続けられる重要な要素だと考えています。
編集部:ここからは、各ステップについて詳しいお話をうかがえますか?
岡田:STEP1のマッチングでは、①希望の国、②希望の園、③オンラインライブの内容を決めていきます。2022年8月時点では、時差の少ない14カ国、200を超える園の中から一緒に、それぞれの園の特徴にあった交流先を選んでいきます。国としては、ニュージランド、オーストラリア、グラム、ケニア、インド、タイ、中国、シンガポールなど、豊富なラインナップから選ぶことができます。
編集部:いろいろな国があるのですね!
岡田: 国や地域の他に、園の特徴やイベント内容でマッチングをするケースもあります。例えば、年中~年長のこどもたちとマッチするように、ミックスエイジという一クラスに幅広い年代のこどもたちがいる海外の園と交流ししたい、10月にハロウィンイベントをやりたいといったように。
編集部:選べる選択肢が多いのは、とても良いことですね。
岡田:マッチングができたら、次は「相手を知る」ステップです。目安としては、ここに約2ヶ月間(※園の方針よる)時間をかけるスケジュールを組むことが多いですね。園で具体的に取り組んでいただくには、①交流国紹介動画で相手の国を学ぶ、②ビデオレター交換、③日常に異文化を取り入れる国別アイデア紹介などになります。
編集部:こちらについても詳しくうかがえますか?
岡田:まず、動画では相手の国の食べ物や文化などについて、「マグー」という魚のキャラクターと一緒に身体を動かしながら学べる楽しい内容となっています。
動画教材で相手の国について学んだ後は、ビデオレターの交換。ここでは、園で過ごしている様子や、こどもたちの簡単な自己紹介を行います。このステップを踏むことで、お互いにどんな友達と交流するのか、期待感を高め、親しみを感じてもらいやすくなるのです。(ビデオレターの作成は、各園からもらった素材を元にEN-TRY側にて作成)
他にも、相手の国の国旗や有名なものの絵を描いたり、その国のダンスを踊ってみるたり、その国の料理を食べてみたり、園のプログラムのなかで世界を感じられるようなアドバイスをさせていただくこともあります。
編集部:このステップを通して、子どもたちへの海外への関心などが培われるのですね。
岡田:その後は、いよいよオンラインライブ。まずは、お互いの国の言葉であいさつし、マグーと一緒にゲームやクイズなどに挑戦した後は、Q&Aコーナーでお互いに質問をし合う流れとなります。
編集部:自然なかたちで交流が楽しめそうですね。
岡田:はい。最後の質問コーナーでは、短い会話であっても、質問内容を考え、相手に聞き、答えてもらったという経験が、こどもたちにとって大きな自信につながると考えています。
編集部:小さな頃からこういった経験を積むことで、なんでもポジティブに捉えていけそうな気がします。
岡田:実際に子どもたちからは「楽しかった!」「もっと交流したい」という感想をもらったり、先生や親御さんからも「子どもの成長に感動した!」「世界に向けて関心を持つきっかけになりました」といったお声を多数いただいたりしております。
編集部:継続して交流することもできるのでしょうか?
岡田:もちろんです。そちらのケースの方が多いかもしれません。同じ園と深い交流を続けていく園もあれば、毎回違う海外の園と交流をしていろんな文化に触れさせたいといった利用者もいらっしゃいますね。
「海外に触れさせたい」から始まった開発。目指すのは、国際交流が当たり前の世界
編集部:お話を聞いて、とても充実したサービス内容だと改めて実感しました。開発に至るまでの経緯についても教えていただけますか?
岡田:EN-TRY世界交流は、子どもがいる経営メンバーの「小さなうちから海外に触れさせたい」という思いから始まりました。2019年から3年かけて、サービスを作り上げ、2021年に正式ローンチしました。
編集部:サービスづくりにおいて大変だったことはありますか?
岡田:一番大変だったのは、海外の保育園や幼稚園とのつながり作りです。海外の園に、私たちがやりたいことを説明し、それに賛同してもらったところを選びました。
編集部:やはり、根幹の「思い」の部分が重要なのですね!BabyTech®️ Award Japan 2021に応募したきっかけや理由についても教えていただきたいです。
岡田:プログラムの開発や改善を進めていく中で、信頼ある子ども向けテクノロジーのアワードであるBabyTech®️ Awardの存在を知り、受賞できれば私たちにサービスについてより多くの方に知っていただけると考え、応募を決めました。
編集部:ありがとうございます!最後に、今後の展望について教えてください。
岡田:今後は、オンラインライブはもちろん、ライブ前や交流後のプログラムもさらに充実させたいと考えております。EN-TRY世界交流は園の皆さまと一緒に試行錯誤しながら作ってきたプログラム。これからも、私たちのビジョンに共感してくださる方々と一緒に、子どもたちの国際交流が当たり前な世の中を作っていきたいです!
編集部:子どものうちからそんな体験ができたら、世界がより近く、面白くなりそうですね!岡田さん、本日は素敵なお話をありがとうございました。
取材を終えて
コロナ禍が長引き、ウクライナでは戦争が起きている現在。SDGsで「多様性」の大切さが掲げられながらも、理想と現実の間に大きな隔たりがあるのを感じます。そこに抜けているのは、「海外に関心を持ち、つながる」という経験なのではないでしょうか?EN-TRY世界交流のサービス内容を聞いて、その理念やプログラムの素晴らしさに感銘を受けました。海外と触れ合う経験は、子どもたちの世界を大いに広げてくれますし、同時に自分たちが住む日本についても客観的に見つめられるきっかけにもなるのではないでしょうか?
「EN-TRY」 公式ホームページ
https://www.tal-entry.com/
取材・執筆:立岡美佐子(たておか・みさこ)
IT企業から、編集・出版業界に転職。現在は、フリーランスの編集者兼ライターとして旅やグルメ、ソーシャル系など幅広い分野で編集や執筆活動を行っております。
大事にしているのは「価値のある情報を、読者に面白く、わかりやすく伝えること」。
これまで『TRANSIT』『FRaU』『メトロミニッツ』など多数の雑誌制作に携わってきました。
ベビーテックは、「子どもの頃にこんなサービスや商品があれば!」と思うものとの出会いばかりで、毎回刺激をもらっています。趣味は、旅行と料理と合気道。