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「手のひらに安心を」産婦人科・小児科オンラインから始まる「つながる医療」

本サービスのポイント
  • 「産婦人科・小児科オンライン」では、24時間、誰でも無料で現役の産婦人科医や助産師、小児科医に相談ができる
  • 相談手段は、LINEや電話などから選択可能。「対面ではないからこそ言いたいことが伝えられる」という声も
  • 「産婦人科・小児科オンライン」のサービスを通じて、妊娠、出産、子育てで誰も孤立しない社会の実現を目指す

「子どもの具合が悪そうだけど、病院に行くほどでは…」「妊娠中の体調について相談したいけど、近くに病院がない」。小さなものから大きなものまで、様々な悩みに直面する、妊娠・育児期。誰かに相談がしたいけど話を聞いてくれる人が近くにいなかったり、病院に行くのも大変だったりするケースも多いですよね。

今回ご紹介する「産婦人科・小児科オンライン」は、そんなちょっとした悩みに、現役の産婦人科医や助産師、小児科医がオンライン上で応えてくれるサービスです。そこで今回は「産婦人科・小児科オンライン」を提供する株式会社Kids Publicの代表で自身も小児科医として働いている、橋本直也さんにサービスの特徴や開発の背景、サービスを通じて目指す社会像についてお話をうかがいました。

(お話を伺ったのは)

株式会社Kids Public
代表取締役 橋本直也さん(以下、敬称略)

小さな悩みでも気軽にドクターに相談できる

編集部:まずは、「産婦人科・小児科オンライン」のサービス内容について教えていただけますか?

橋本:「手のひらに安心(小児科医・産婦人科医・助産師)を」がコンセプトのサービスで、どんな小さな悩みでも、気になることや相談したいことがあれば、小児科医や産婦人科医、助産師にLINEや電話で気軽に相談ができるところが大きな特徴ですね。

相談までのステップはとても簡単。予約画面で希望の日時を入力し、お名前などの基本情報を入力したら予約は完了です!あとは、相談のお時間になったら、電話やLINEなどご希望のツールで相談ができます。

相談したいときにお手軽に話を聞いてもらえるのが魅力

編集部:24時間、無料でサービスが受けられるところも、利用者さんにとって嬉しいポイントですね!

橋本:日本の小児科や産婦人科の医療水準はとても素晴らしいと考えています。しかし、課題も残っています。身体的な健康は保たれているとしても、心理、社会的な健康には改善の余地がある方も少なくありません。そして、そうした課題にはそれぞれの家庭がおかれた状況による格差があります。「産婦人科・小児科オンライン」をつくった背景には、「住んでいる場所や、社会的状況に関わらず、どんな方でも平等に医師と繋がれるサービスを作りたい」という思いがあるんです。

弊社のビジネスは、「B to B to C」というものになっており、各自治体さんと連携をすることで、そこで暮らす方々に無料でサービスを届けられるようになっております。

編集部:なるほど。「産婦人科・小児科オンライン」の一番大きな特徴についても教えてもらえますか?

橋本:他のサービスを比べて最も違う点は、「明確な実績がある」ことですね。

編集部:詳しく教えていただけますか?

橋本:サービスを展開するにあたって、横浜市、東京大学、弊社の産学官連携で検証を行いました。2年間に渡りランダムに選んだ約750名の方を対象に「遠隔健康医療相談サービス(産婦人科・小児科オンライン)を妊娠期から提供することで、産後うつ病の高リスクとなる人を減らせるか」という検証をしたんです。その結果、産後うつ病高リスク者が相対的に33.5%減少したという結果が出ました。弊社はデータには一切触れず、結果の評価は、第三者である東京大学が客観的に行いました。

実際の検証で産後鬱のリスクが軽減

編集部:しっかりとしたエビデンスがあるのですね!2年にも渡って、ここまでの検証をした背景には、何か特別な思いがあるのでしょうか?

橋本:医療テックやヘルスケアのサービスは、「効果があるかもしれない」というサービスや商品が多い気がするんです。しかし、人にとってもっとも重要と言える健康や命に関わる業界で、そういった証拠のないサービスを提供するのは、ユーザーに対して真摯じゃない、という思いがありました。「産婦人科・小児科オンライン」をそういったもので終わらせたくないという思いのもと、検証を行っていました。

「病院で待っているだけでは届かない不安や孤立」をなくしたい

編集部:そんな理念が背景にあったのですね。よろしければ、「産婦人科オンライン」と「小児科オンライン」を生み出すまでの経緯についても教えていただけますでしょうか?

橋本:もちろんです。10年ほど前になりますが、小児科医として勤務をしていた病院で、あるお子さんに出会ったんです。その子は、母親の虐待によって救急車で運ばれて来ました。慌てて連れてきた母親もまた、社会的な孤立を深めていました。以前から病院で施す医療の限界について考えることはあったのですが、この出来事を経て、「待っているだけでは届かない不安や孤立がある」ということを痛感されられました。

編集部:悲しい出来事ですね…。医療現場では、似たようなケースも多いのでしょうか?

橋本:多いですね。虐待相談の対応数を見ても、過去10年に比べその数が、約20万7000件と約3倍になっているというデータがあります。以前に比べて、報告されやすい環境が整ったという面もあるかとは思いますが、それでもとても大きな数字です。

編集部:そういった背景にはどんな問題があると思われますか?

橋本:児童虐待は、単に「親が悪い」で片付けられる問題ではありません。虐待に至るまでに、大きな不安や頼れる人がいなかった状態が続き、どうしようもなく子どもにあたってしまうということが多いのです。核家族化や孤独化、いまだ根強く残る男性優位の社会構造、貧困などたくさんの要因が複雑に絡まっていると思います。

「小児科オンライン」と「産婦人科オンライン」では、その中でも比較的変えていきやすい、「頼れる人がいない」という問題にアプローチをかけるべく生まれたサービスなのです。

「相談できる人がいる」という安心感が不安を減らす

編集部:そんな経緯があったのですね!サービスをローンチさせるまでは、どのような道のりだったのでしょうか?

橋本:大学院で公衆衛生学について勉強をしていた際、起業した仲間がつくったWEBメディアで医療ライターとして記事作成を手伝っていたんです。そこで、インターネットの拡散力の凄さを実感し、ネットを利用したサービスを考えはじめました。

まずは、自分ひとりでHPを作って、LINEで相談を受けるところから始めました。それから、デジタルガレージが主催するOpen Network Labというスタートアッププログラムに参加し、仲間を見つけていった感じですね。

編集部:橋本さんご自身の領域である小児科以外に、産婦人科のサービスも作られた理由を教えてください。

橋本:妊娠、出産、子育ては切れ目なく支えるべき、と考えているからです。そして同じアイデアを持つ産婦人科医の重見との出会いの縁もありました。重見は現在、産婦人科オンラインの代表です。

編集部:サービスを現在のものに成長させるなかで、大変だったことがあれば教えて下さい。

橋本:「産婦人科・小児科オンライン」は、「B to B to C」というモデルのため、まずは自治体さんに導入いただく必要があるのですが、はじめはこれまでにないサービスということで、なかなかスムーズに導入いただけない時もありました。

編集部:オンラインでお医者さんに相談する、という文化自体がないですもんね。

橋本:そこで役に立ったのが、エビデンスがあるということです。効果測定をしたデータがあるため、どんな風に役に立つサービスなのか、効果がイメージしやすくなったと思います。

気軽に相談がしやすい画面・対応で本当の悩みにアプローチ

編集部:なるほど!そこでエビデンスが活きてくるのですね。実際に利用者した方の質問や反響についてもうかがえますか?

橋本:質問内容としては、いろいろですが、よくある相談としては、「育児相談」「子どもが熱を出したときの受診の判断基準」「授乳」「離乳食の進め方」などですね。いただいた、感想で多かったのは、「便利だった」というものの他に、「LINEだと本音が言えた」というご意見もいただきました。

編集部:ありがとうございます。利用者の方が、気楽に相談しやすいような工夫があれば教えてください。

橋本:対応する医療者側とサービスの見せ方の両方でいろいろな工夫をしています。実際の対応といった医療者面では、対応していただく医師や助産師に対して事前に、事業に込めた思いについてお話をしてあり、相談者の方に安心して話をしてもらえるように、共感の伝え方などについてレクチャーをしています。また、サービス画面自体も、柔らかなイメージの色合いや、シンプルな質問遷移を意識して作っています。

オンラインの良さをいかし、安心して相談ができる仕組みに

妊娠や出産において、誰も孤立しない社会を作りたい

編集部:ありがとうございます。最後に「産婦人科・小児科オンライン」が目指すゴールについて教えてください。

橋本:妊娠や出産、子育てというタイミングにおいて、誰も孤立しない社会を作っていけたらと考えています。そのためにも、日本で毎年生まれる約80万人の子どもたちやその保護者全員に「産婦人科・小児科オンライン」のサービスを届けるようにしたいですね。

また、これまで集まったデータを活用できるサービスの展開についても取り組んでいます。「産婦人科・小児科オンライン」で多い質問の一つが、妊娠期や授乳中に使える薬について。現在、弊社では「くすりぼ」というチャットボットサービスを立ち上げ、薬の情報や受診の目安について発信しています。

編集部:いつでも先生に相談できる状態があるというのは、とても素敵な未来ですね。

橋本:妊娠すると誰もが母子手帳をもらうように、スマホのなかに当たり前に産婦人科医や小児科医がいる状態を作り、不用意に孤立する人がいない社会をつくっていけたらと考えています。

編集部:本日は、どうもありがとうございました!

取材を終えて

お話をうかがって、「産婦人科・小児科オンライン」は、事業自体の素晴らしさに加え、「いつでも繋がれる安心感」を与えてくれるサービスだと感じました。新型コロナの影響や世界的な不況により、現在の社会は以前よりも分断が進んでいるように感じられます。そのようななかで「自分からに病院に行くといったアクションをしなくても、いつでもお医者さんに聞きたいことを確認できる」という状態は、心の余裕をつくり、そこから良いスパイラルが生まれてくる気がしました。橋本さんがお話されたような、全国どこでも産婦人科医や助産師、小児科医と繋がれる未来がくることを楽しみにしています。

「産婦人科・小児科オンライン」を運営する株式会社Kids Public 公式ホームページ
https://kids-public.co.jp/

(終わり)

取材・執筆:立岡美佐子(たておか・みさこ)

IT企業から、編集・出版業界に転職。現在は、フリーランスの編集者兼ライターとして旅やグルメ、ソーシャル系など幅広い分野で編集や執筆活動を行っております。
大事にしているのは「価値のある情報を、読者に面白く、わかりやすく伝えること」。
これまで『TRANSIT』『FRaU』『メトロミニッツ』など多数の雑誌制作に携わってきました。
ベビーテックは、「子どもの頃にこんなサービスや商品があれば!」と思うものとの出会いばかりで、毎回刺激をもらっています。趣味は、旅行と料理と合気道。