- LINEに毎日届くクイズに答えていくうちに、育児に必要な知識が学べる
- パパの育児参加のきっかけとなり、夫婦のコミュニケーションを円滑にしてくれる
- 自治体・企業向けeラーニング教材も開発中であり、地域の子育て支援や福利厚生の一環として活用できる
今回ご紹介する「育児クイズ パパ力検定(以下、パパ力検定)」は、LINEを利用して育児情報を提供するサービス。送られてくるクイズに答えたり、連載されているコラムを読んだりすることで、自然に育児に関する知識が身につきます。そんな同サービスは「BabyTech® Award Japan 2020 powered by DNP 大日本印刷」で特別賞を受賞しました。そこでBabyTech.jp編集部はパパ力検定を開発したMama’s Sachi 合同会社の髙橋幸恵さん(以下、敬称略)に取材を行い、同サービスの概要や開発の経緯、今後の展開について伺いました。
(お話を伺ったのは)
Mama’s Sachi 合同会社
髙橋 幸恵(たかはし・さちえ)さん
専門家が作成・監修した「クイズ」と「解説」で育児知識が基本から身に付く
編集部:本日はお忙しいところ、大変ありがとうございます。さっそくですが、パパ力検定の概要と特徴について伺えますか?
髙橋:パパ力検定は利用してくださる方がまったく育児について知らないことを前提に、産後のママの状態や新生児から1歳半くらいまでの育児に必要な知識を、基本のところから提供するクイズ形式の情報サービスです。「子どもの発達」に関することなどに加え、パパ力検定の開発には経験豊富な救急救命士や保健師、小児科の医師にも参加していただいているので、子どもの事故予防や緊急時の対処法などの知識が手厚いという点が特徴です。
編集部:実際にパパ力検定をやってみましたが、子どもの命に関わる場合の対処法に関する知識が得られて本当に良かったです。パパが1人で子どもとお留守番というのは、よくあるシチュエーションですから……。
髙橋:保護者の方は分からないことだらけで不安だと思いますが、頭の片隅にでも「こういうときはこうする」という知識があれば、やはり安心感があると思います。監修の救急救命士の先生が実際に行っている救命講習の内容などが入っており、出血時の止血法や窒息したときの対処法、その他にも心肺蘇生法や救急車を呼ぶときのコツなども網羅しています。本サービスを利用されているパパにも、これらの命を守るクイズのステージは好評ですね。
また、パパ力検定のクイズには、電話育児相談に25年間にわたり従事していらしたベテランの保健師さんが作成したものが多数あります。そのため多くの保護者の方が悩みがちなテーマがクイズと解説に落とし込まれており、それもパパ力検定の特徴のひとつだと思います。
編集部:パパ力検定は出てくるキャラクターも親しみやすいですね。私はムササビの「むさじい」のファンになりました。毎日1問ずつクイズがLINEで送られてくる形式ですが、今のところ全問正解して「むさじぃ」に褒められています。
髙橋:ステージ1の新生児編は、皆さん簡単でもっと難しくして欲しいというご意見もあります。しかし、ステージ2やステージ3にいくと、かなり多くの方の全問正解記録がストップします。
編集部:クイズとしてもよくできているのですね。
髙橋:ただ、開発側としては「クイズ」より「解説」の方を重視しています。クイズに関しては解釈次第で○でも×でも正解というものが混ざっているかもしれませんが、それはお遊びとしてご容赦いただきたくて、やはり見ていただきたいのは解説のほうです。利用されている方からも「解説をすごく楽しく読んでいます」「そこの情報が手厚いのでためになっています」という声をいただいており、そこは狙い通りだったという感触です。
編集部:たしかに情報の出典などもはっきり書かれていましたし、LINEで画面をスクロールしなければ読めないくらい解説が非常に充実していました。
髙橋: 2020年11月にサービスをスタートした時は、解説が長すぎるのではないかという不安がありました。しかし、利用されている保護者の方に聞いてみると、LINEだったらスクロールして読むのもそれほど苦ではないということで、今の形式に踏み切りました。
髙橋:「先輩パパからの手紙」「子育て4コマ漫画」「パパママの元気に役立つ薬膳の知識」「脳を育てる発達を促すコツ」「保育士さんたちの手紙」などの連載コラムがあります。ただ、クイズは1日1回LINEで送られてきますが、コラムはそのクイズの下のメニューをタップすることで読めるようになっています。連載コラムもクイズのようにLINEで送るようにすると、クイズだけでお腹いっぱいという人はつらくなってしまいますので。
編集部:たしかにLINEでいろいろな情報が頻繁に送られてくると、ちょっと負担に感じてしまいそうです。
髙橋:利用してくださる皆さんには気軽に楽しくやっていただきたいと考えているため、1日当たりに提供するコンテンツの量はかなり注意しています。
編集部:コンテンツの制作体制はどのようになっているのですか?
髙橋:ご協力いただいている専門家は小児科の医師、保健師、救命救急士、薬膳の専門家でもある管理栄養士、理学療法士といった方たちです。その方たちに加えて、保育士3~4名にインタビューしています。また、漫画家の方にも参加していただいています。
育児におけるパパとママの情報格差・意識格差を埋める
編集部:「パパ力検定」を開発されたきっかけを伺えますか?
髙橋:私はもともと出版社で学習書や実用書などの編集を手がけていたのですが、2020年に独立し、パパ力検定を開発しました。開発のきっかけのひとつは、私自身の経験です。実は長男が0歳のとき、分からないことだらけで少し心身のバランスを崩してしまいました。その時期は育児情報をネットで検索していたのですが、もう検索すること自体に疲れてしまったのです。そしてパパ力検定のような、専門家の知見を気軽に楽しく得られ、安心感のあるサービスがあったらいいな……というイメージが浮かびました。2020年の4月〜5月くらいに夫に「パパ力検定」のアイデアを相談してみたところ、「それはすごくいいと思う」「自分も育児についての知識をもっと知りたかった」と言ってくれました。
実際、ほとんどの方はなにも育児知識を学ばないまま親になりますから、完全に手探り状態なわけです。もし、もっと知識があれば私も育児に翻弄されず、もう少し先のことを予測しながら取り組めたでしょう。夫も、長男が3歳をすぎて子どもの社会が広がり始めるとパパ友ができたり、自分自身も慣れてきて楽しくなってきたけれども、それまでは知識もなく子育ての相談ができる人も周囲にいなくて孤独感があった……と言っていました。
このような形で、特に新生児期〜2歳くらいまでのパパに向けて知識を提供し、安心感を生み出すサービスというのは素晴らしいと思うよ、と夫に背中を押してもらったのです。そんな折、「BabyTech Award Japan 2020」のことを知り、それが目標となって開発がスタートしました。
編集部:「パパ力検定」の開発で苦労された点はありますか?
髙橋:やはりコンテンツの整備です。2021年9月に250問のクイズとコラム連載といったすべてのコンテンツが完成したのですが、これは2020年10月のサービス開始から1年かけて、ようやく土台ができたという状況です。また、もともと私が出版社の編集者というアナログ人間だったこともあり、LINEでどのようなことができるのか、配信機能のことなどを自分で研究しながらサービスに取り込む作業も大変でした。
編集部:このサービスが「ママ力検定」ではなく、「パパ力検定」になった理由はなんだったのでしょうか?
髙橋:ママは妊娠すると、そこから「自分ごと」として情報を集め始められる方が多いと思います。ですから、出産したときにはそれなりの情報が集まっています。一方、パパは出産後、自分の子どもを見た瞬間からがスタートということが多いのではないでしょうか。だからこそ、そういう夫婦間の育児に対する情報量や意識の差を埋める必要があると思いました。やはり夫婦で目線を合わせ、タッグを組んで育児に取り組むことが一番大切だと私は思っています。また、そうすることで結果的にママのサポートにもなると考えています。
私自身もそうでしたが、育児中にママがパパに対して、「これをやってほしい」「あれもやってほしい」と思っても、伝えきれない部分があると思います。たとえば「沐浴」というお世話ひとつをとっても、「沐浴にはこういう手順があって、私はこれだけの別の作業があって大変だから、一緒にやってほしい」と伝えるだけであっても、忙しい育児に追われていると時間的にも体力的にも厳しく、会話ができないまま寝てしまったり、伝え忘れてしまったりするわけです。そこで「パパ力検定」では、沐浴には多くの手順があること、1人で行うのはとても大変だから夫婦で取り組めるといいですね、といった解説を盛り込んでいます。
「パパ力検定」は夫婦間コミュニケーションのきっかけになっている
編集部:今まさにゼロ歳から1歳半の子どもを育てている真っ最中というパパ・ママの利用者からは、どのような声が寄せられていますか?
髙橋:「ちょうど予習ができて助かる」「室内で靴下を履かせたほうがいいのかどうか悩んでいたら、ちょうどその内容が配信されて助かりました」という感想や、「知らなかったことを順番に知ることができて、すごく良かった」「夫にも共有します」といった声も寄せられています。「沐浴・ミルク・おむつ替えのところをパパに見せて理解を促しています」という声もありました。他にも育児を終えられたご夫婦が、昔を懐かしみながらご覧になっている事例もあります。
編集部:利用されている方のパパとママの割合はいかがですか?
髙橋:当社のアンケート結果では、男性が6割・女性が4割となっています。
「パパ力検定」が自治体・企業向けの「eラーニング教材」に!?
編集部:最後に、今後の展開について伺えますでしょうか?
髙橋:法人向けサービスとして、パパ力検定のコンテンツを活用した「eラーニング」を提供したいと考えています。自治体の両親学級での利用や、例えば産後シッターさんの研修、企業の福利厚生における育児支援のサポートの一つとして、動画を充実させた取り組みやすいものを作っています。このサービスでは、赤ちゃんを身近に感じられる動画や救命法をやさしくレクチャーしたものなどをクイズとともに提供します。
これから産休・育休に入るママ・ワーキングマザーといった方たちにも使っていただきたいので、ネーミングは「I Base+(アイベースプラス)」に変更しました。Ikuji(育児)のBase(土台)を作るeラーニングサービスとして、2022年1月からサービスを開始します。I Base+では、オリジナルアンケートをつけるなどのカスタマイズも可能です。まずはトライアルをしていただき、私も密接にサポートさせていただきながら、より良い環境づくりの役に立っていきたいです。
編集部:それは素晴らしいですね!いわゆる福利厚生に力を入れていますよ、子育てをしやすい環境ですよ、ということをアピールしたい自治体や会社にとって、非常に魅力的なサービスだと思います。
取材を終えて
実際に「パパ力検定」に挑戦したところ、すでに子どもが3歳になった記者でも「あのときこれを知っていれば……」という知識がたくさん出てきました。やはりパパの「分からないからやらない」、ママの「忙しいから言えない」という育児の負のループから抜け出すためには、このようなサービスが必要なのではないでしょうか。ぜひ、日本中のパパ・ママに本サービスを利用していただきたいと思いました。
「育児クイズ パパ力検定」運営会社公式ホームページ
https://www.mamasachi.jp/
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