- 保育園・幼稚園などの施設で働く保育士の業務をサポートするICTシステム
- ICT化によって書類作成をはじめとするさまざまな業務を一貫してサポート
- 子どもと向き合う時間が増えることで保育の質が向上する
近年、資格を持っていても保育の仕事に就かない「潜在保育士」の増加が深刻な問題になっています。その要因のひとつは業務の負担の大きさにありました。こども施設向けICTシステム「CoDMON(コドモン)」は、保育士さんに寄り添い、業務の負担軽減に大きく貢献。リリースから約4年で多くの保育施設から支持を獲得するまでになりました。保育士さんの負担軽減、業務の効率化の先に見据える、さらなる保育の質の向上に向けた取り組みについて、株式会社コドモンの代表取締役 小池義則さんと取締役兼開発本部長 稲葉達也さんにお話を伺いました。
(お話を伺ったのは)
株式会社コドモン
代表取締役 小池義則さん
取締役兼開発本部長 稲葉達也さん
保育士さんが子どもたちと向き合う時間と心のゆとりをもてるように
編集部: サービスの特徴についてお聞かせください。
小池: 弊社の子ども施設向けICTシステム「CoDMON(以下、コドモン)」は「子どもを取り巻く環境を、テクノロジーの力でより良いものに」という理念の下、子どもたちを預かる保育園や幼稚園といった保育施設で働く保育士さんに向けたサポートサービスとして、2015年にリリースを開始しました。いま保育の現場では、待機児童の増加や、保育に求められる様々な基準が厳格化されたことで、サービス残業の常態化や低賃金といった課題が山積しています。保育士さんたちの労働環境や働き方が健全化されなければ、そのしわ寄せが子どもたちに及んでしまいます。こうした危惧から、テクノロジーを軸に保育士さんの負担を軽減しながら、働き方をより良い方向へと変えていくため、保育士さん特化型のサービスをスタートさせました。
編集部: 他社でも同様のサービスを提供しているのでしょうか。
小池: 類似したサービスは多々ありますが、その多くは、保育士さんの業務改善というよりは、保護者と保育士さんのコミュニケーション機能に重きを置いたもののようです。ちなみにITベンチャーとして、この分野に参入したのは、おそらく弊社が初めてではないかと思います。
編集部: コドモンは保育の現場では速やかに受け入れてもらえたのでしょうか。
小池: 当初、コドモンは保育士さんにフォーカスしたサービスではありませんでした。「保護者にとっていいサービスを」と、デジタル連絡帳だとか、次世代のコミュニケーションツールといった打ち出し方でDMの送付、イベントでの呼びかけなどPR活動に励みましたが、まったく受け入れてもらえませんでしたね。後にわかったことなんですが、保育施設側の本当のニーズは他にあったんです。
編集部: 保育施設側のニーズはコミュニケーションツールにはなかったということですか?
小池: 保育施設のニーズは「保育士に長く働き続けてほしい」ということでした。保育施設には保育士の配置基準といって、国や自治体が定めた子どもの安全を確保するために必要な保育士の人数の基準が設定されています。この基準を下回ってしまうと施設の運営に支障が生まれ、園児たちを十分にお預かりできなくなってしまいます。ところが、先ほど述べたように保育士さんの労働環境や、待遇は決して良くありませんから、はじめのうちは志や想いを持って保育士になったとしても、現実問題として長期就労ができないという実状がありました。
編集部: どんな業務が保育士さんの負担になっていたのでしょうか。
小池: 保育士さんが一番負担に感じているのは、おもに書類作成をはじめとした事務業務です。記録をつけたり、指導案を作成したりする業務が1日の約4割を占めることもあるようです。それが結果的に子どもたちと向き合うための記録や計画であればいいのですが、必ずしもそういうわけにもいかないようです。
編集部: 子どもたちと向き合うこと以外の業務がそんなに多いとは知りませんでした。保育士さんの負担を解消するためのツールである「コドモン」の現場の反響はいかがでしたか。
小池: たとえ、ご提供するサービスが先進的なITツールであっても保育士さんの負担が増えるようなものでは到底受け入れてもらえませんし、保育という性質上、効率や合理化といった考えが必ずしも歓迎されるわけではありません。手書きがいいといった価値観もありますから、デジタルを活用することのメリットをしっかりと提示するよう心がけています。私たちが保育士さんの業務の中で、もっとも合理化すべきだと感じたのは、書類を転記したり、書き直したりする作業でした。そこで今まで園で使用していたエクセル形式の帳票フォーマットをそのままコドモン上に取り込み使えるようにし、さらにひとつの項目に記録を入力すれば、関連する帳票に反映されるようデータを連携させました。保育施設からは「すごくわかりやすい!文書の作成時間が大幅に短縮された」、「子どもたちと向き合う時間や子どもたちについて語り合う時間が増えた!」といった感想をいただくことができました。
あらゆるデータを連動させることで日々の業務が円滑に
編集部: データを連動させることが負担の軽減のポイントだったんですね。
小池: 園児ごとの午睡・検温・排便チェックを管理して個人の記録や連絡帳などに反映することもできます。 また、保育士さん、職員さんの出退勤時刻の打刻をはじめとする勤怠データとシフトを連動させることで労務管理の簡略化も実現しています。機能の幅も広く、さまざまな機能が横並びで共有できることが、コドモンの強みだと思います。
編集部: サービス開始から4年が経過しましたが、コドモンはどのくらいの保育施設で導入されているのでしょうか?
小池: 7月末時点でコドモンに毎日アクセスしている施設が3,600ほど。それ以外に無料の写真機能だけをお使いのユーザーさまを含めますと、約4,000の保育施設でご利用いただいています。保育所、幼稚園、学童といった保育施設は全国に約40,000施設あると言われていますから、全体のおよそ1割の施設で導入されていることになりますね。
編集部: 4,000もの施設で導入されることは当初から想定されていましたか。
小池: およそ想定どおりで推移しています。弊社では2021年の4月に導入実績が10,000施設に到達することを目指しています。そのためにも、ご利用料金が導入する際の障壁にならないよう、リーズナブルな価格(初期費用0円、月々5,000円~)に設定しています。
保育のプロの声に耳を傾けながら、問題解決のプロとして最適解を提案
編集部: システムを開発するうえで、大事にしているこだわりなどはありますか。
稲葉: すべての保育施設の方にご満足いただけるよう、幅を持って設計することを開発部門の基本理念としています。時には保育士さんたちからヒアリングを行いながら機能の充実や改善に取り組んでいますが、必ずしもお客さまの要望すべてを鵜呑みにすることが最善の解決策になるとは限りません。私たちは問題解決のプロですから、まずは現場での問題点を掘り起こし、それを解決するためにはどういった画面設定やレイアウトにするべきかと、社内で議論を重ね、最良の解決策をご提案するようにしています。
編集部: 保育施設とのヒアリングは頻繁に行っているのでしょうか。
小池: はい。電話やメールはもちろん、時には開発中の画面を見せながら直接ご意見を頂戴しています。また、近年では現場の声と同じくらいデータの重要性が高まっていると実感しています。保育施設で毎日記録されている子どもたちのさまざまなデータから保育士さんですら気づいていないことが浮き彫りになるケースも少なくありません。今後はデータ解析にも力を入れ、子どもたちの発育に必要なデータをこちらから保育施設側に提供していければと考えています。
編集部: 保護者の方にヒアリングする機会はありますか。
小池: これまでは、積極的に保護者の皆様にヒアリングをすることはありませんでした。私達は保育士さんファーストで事業を進めていることが価値であり、保育施設や保育士さんに寄り添うことを第一優先としたからです。これからは保護者の方へのサポートにも力を注ごうと、7月より新たな取り組みをスタートしたところです。
編集部: 保護者の方へのサポートも注力していくことを決めた理由をお聞かせください。
小池: たとえば、2歳頃までの子どもの成長は日々めざましいものがありますよね。首が座った、ハイハイができるようになったなど、大きな変化には気づけたとしても、哺乳瓶を持てるようになったといった、ちょっとした変化には気づけないこともあります。どんな変化であっても、子育てをしている保護者にとっては、かけがえのないものです。保育園では体重や体温、日常の変化などを細かく記録しているので発育に関する情報を保護者も把握できれば、発育状況の理解が深まりますし、保護者と保育施設との連携を強化するきっかけにもなるはずですから。
データを活用して保育士、子どもたち、保護者、すべての人を幸せにしたい
編集部: データを通じて見えてくることが、たくさんありそうですね。
小池: 発育に関する情報はとても重要です。子どもにどんな教育を受けさせるべきかを検討する際の参考にもなります。場合によっては、子どもたちの未来にも影響を与えかねません。子どもの発育についての情報はまだまだママの方がパパよりも把握している傾向にありますから、今後は両親で情報を共有できるシステムの提供もめざしていきたいですね。
編集部: これからの展望について、お聞かせください。
小池: 業務の効率化を図りながら、情報をデータとして残せることが弊社のなによりの強みだと感じています。たとえば、ごはんをたくさん食べているはずなのに身長体重が増えないケースがあったとして、その子に発育上の問題があるのか、それとも発育を阻害するような事情があるのか、その原因を突き止めることができるかもしれません。厚生労働省や自治体であっても管理していない重要な情報ですから、データ管理に万全を期すとともに、使命感を持って、社会的にも価値ある活用につなげていきたいですね。
<取材を終えて>
保育士さんの業務のおよそ4割の時間が書類作成に費やされていることにたいへん驚きをおぼえました。デジタルツールに不慣れな人でも使えるようシンプルな操作性を実現するなど、細やかな配慮や工夫は、現場の声に真摯に傾けているからこそなせる業なのかもしれません。命を預かる保育の現場で保育士さんが疲弊してしまうことなく、子どもたちと向き合う時間や心のゆとりが増えれば、保育業界の明るいニュースも増えてくることでしょう。
コドモンサービスサイト : https://www.codmon.com/
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