BTA2023受賞商品発表!

天井に設置されたカメラとタブレットのみで、午睡チェックを強力にサポートする「ベビモニ」

本製品のポイント
  • 天井に設置されたカメラで、午睡中の子供たちの姿勢を自動識別・記録する
  • 午睡チェックの際にセンサー類を準備する必要がなく、電池交換などの労力も不要
  • 医療分野で鍛えた画像解析とAI技術により、午睡チェックの精度が飛躍的にアップ

今回ご紹介する「ベビモニ」は、天井に設置したカメラによって、午睡中の乳幼児の危険な姿勢を検知する午睡チェックシステムです。午睡のたびにセンサーを内蔵したマットを設置したり、なんらかのデバイスを子供たちの服に取り付けるなどの手間がなく、保育士の方たちの午睡チェック作業をサポートしてくれます。そんな同製品は「BabyTech® Award Japan 2020安全対策と見守り部門」で優秀賞を受賞しました。そこでBabyTech.jp編集部はベビモニを開発したEMC Healthcare株式会社の浦上悟さん(以下、敬称略)に取材を行い、同製品の概要や開発の経緯、今後の展開について伺いました。

(お話を伺ったのは)

EMC Healthcare株式会社 取締役
浦上 悟(うらかみ・さとる)さん

保育における午睡チェックの労力を軽減し、保育士の業務をサポート

編集部:本日はお忙しいところ、大変ありがとうございます。さっそくですが、ベビモニの概要について伺えますか?

浦上:まず、午睡チェックシステムが導入されている背景からお話ししましょう。実は保育施設での死亡事故の7割は、睡眠中に発生していると言われています。「乳幼児突然死症候群(SIDS)」と呼ばれているものが関連しているのですが、これは医学的に明確な原因は分かっていません。ただ、「うつ伏せ寝」をしていると起こりやすいというデータがあるため、厚生労働省等の指導により、午睡中の乳幼児の姿勢を確認する「午睡チェック」(ブレスチェック)が保育施設では行われています。

編集部:保育士の方が5分に1回、姿勢と呼吸を確認・記録するというものですね。

浦上:そうです。本来であれば、保育士の方たちは午睡中の時間を次の保育の準備や、子供たちの睡眠状態をもっと時間をかけて観察するといったことに使いたいわけです。しかし、5分ごとに一人一人の姿勢と呼吸を確認して、紙に記入していくとなると、ひたすら書類と向き合うことになってしまいます。ベビモニはこの問題をICTの力で解決することを考えた製品です。

ベビモニは午睡チェックの記録を自動作成してくれる

保育の現場で判明した「午睡チェックシステム」のデメリットを解決!

浦上:具体的には、天井に設置したカメラで撮影した画像をAIで分析することにより、乳幼児の姿勢を午睡チェックシートに自動的に記入するというものです。もちろん、うつ伏せ寝を検知すれば、警報(アラート)も出すようになっています。

編集部:ありがとうございます。私は過去、同様に午睡チェックをサポートする他社の製品を取材させていただいたのですが、ベビモニはどういう点が異なるのでしょうか?

浦上:すでに導入いただいている保育施設の方からのコメントによると、ベビモニの特徴は大きく2つあります。まず、子供たちに何らかのデバイスを取り付ける方式ですと、本来は保育士の方の労力を軽減することが目的であるにも関わらず、このデバイスはAくんの、こっちはBくんの……といった新たな管理の手間がかかるそうです。さらに、それらをお昼寝の前に何十人もいる子供たちに取り付け、さらに起きたら外さなければなりません。それがとても手間です、というお話を伺いました。しかも1ヶ月ほどでデバイスに内蔵された電池が切れるため、その交換作業が発生したり、デバイスを取り付けようとしたときに電池切れに気づいて、あわてて交換して……という混乱も起きたそうです。

また、午睡している子供の下にマットを敷く方式は、子供の数と同じだけのマットを寝る前に全て準備し、午睡後はまた全て片付けるという作業が大変、とのことでした。折りたたむこともできないそうで、保管場所にも苦労されているようです。

編集部:それは大変そうですね……!

浦上:ベビモニは天井にカメラを取り付け、あとはタブレット端末を用意するだけで使い始めることができます。日常的な作業や電池の交換といった手間は一切発生しないという簡便さが、まず第一の特徴です。

編集部:午睡チェックシステムはマット式やデバイス式が主流だと思っていましたが、これはカメラ式が非常に有利かもしれませんね。

浦上:精度の面でも、ベビモニのようなカメラ式は優れています。たとえば、圧力で子どもの姿勢を検知するマット式の場合、子どもが右を下にして寝ていても、左を下にして寝ていても、同じ状態だと判別してしまいます。デバイスを子供たちの服に取り付ける方式も、身体は横向きだけど顔はうつ伏せで眠っているという姿勢を「うつ伏せ寝の状態」として検知できません。また、服のたるみによって、デバイスが検知した姿勢と実際が異なるということも起きているようです。さらに、デバイスを上下逆に取り付けてしまうと、正しい姿勢を検知することができません。ベビモニはカメラで撮影した画像をAIで判定しているため、上下左右・うつ伏せ・あお向け・顔の向きなども全て正確に検知・識別できるようになっています。その結果、他社の午睡チェックシステムを使われていた保育施設の方からは、誤検知・誤アラートがベビモニになってから、非常に少なくなって助かっている、というお話を伺っています。誤アラートの問題は非常に深刻で、それを止めたり、記録内容を修正するといった手間が生じるだけでなく、「オオカミ少年」の昔話のように「アラートが無視されるようになる」といった事態を招きかねません。

編集部:実際に保育士の方たちの「労力を削減できる」ということと、「精度が高い」という2点がベビモニの特徴ですね。

カメラとタブレットを用意するだけ! 手間いらずなベビモニ

医療現場で活用されてきた「画像解析技術」が、保育の現場で活かされた

編集部:ベビモニを開発された経緯について伺えますか?

浦上:もともと当社はヘルステックが専門で、さまざまな画像解析で医療分野に貢献してきました。その中で偶然、先ほどお伝えしたような保育現場での「午睡チェックシステム」に関する問題を聞いたわけです。医療分野で関係のあった厚生労働省からも、「午睡チェックシステム」の普及を後押ししているけれども、なかなか広がらないというお話を伺いました。そんな背景から、この問題は当社の画像解析技術を使えば解決できるのでは……と考えたのが、ベビモニ開発のきっかけでした。

編集部:苦労された点はどのようなところでしょうか?

浦上:画像解析にAIを使う上で必要だったのが、まず大量の「午睡中の子供たちの寝姿」の画像を集めることでした。実は子供だけでなく、大人を含めても「寝ている状態の人間を真上から撮影した画像」のデータというのはあまり無いのです。通常の画像解析で使うデータは、人間を横から撮影しているので、画像の上の方に頭があり、下の方にあるのが足と決まっています。ところが、寝ている状態の人間を真上から撮影すると、カメラに対して常に同じ方向で寝ているわけではありませんから、そういう常識が通用しません。画像の下の方に頭があったり、上に足があったりすることも普通に起きます。ですから、AIの精度を上げるための画像収集には相当な時間がかかりました。こちらについては、ベビモニのコンセプトやビジョンに賛同いただける保育施設を探し、保護者の方にも許可を取り、カメラを設置させていただきました。

編集部:他に苦労された点はありますか?

浦上:保育施設との接点がなかったため、製品の販売ルート開拓に苦労しました。現在は株式会社ウェルキッズ様の「WEL-KIDS」、続いて株式会社コドモン様の「CoDMON」と提携し、こちらの2社様に非常にお世話になっております。おかげさまで認知度が上がり、お問い合わせも非常に増えています。

寝ている子供の画像を真上から撮影した画像は少ない

導入した保育施設からは、圧倒的な支持の声が寄せられている

編集部:現在の利用施設数と、利用者の声について教えてください。

浦上:現在、数十施設に導入いただいております。また、2021年の夏以降、これまでの半年分くらいの問合せが1ヶ月で寄せられるようになりました。利用されている方から一番多いコメントは、「簡単です」、「ラクです」、「片付けや電池交換の手間がなく非常に助かっています」といったものです。また、「ベビモニのおかげで子供たちが寝ている時間に、子供をよく見られるようになりました」「子供に集中して業務ができるようになりました」というお声もいただいています。

「子供の見守り」という保育士本来の業務に集中できる

今後は睡眠環境も計測し、さらに子供たちの健康の向上に寄与していく

編集部:今後のベビモニの展開について伺えますか?

浦上:現在の問合せペースが続けば、来年には三桁の施設に普及することが見込まれます。そうなるとデータの蓄積によって、さまざまなことが可能になるでしょう。たとえば、午睡チェックだけでなく、画像を解析することにより子供たちの健康に寄与するような提案ができるかもしれません。また、2021年10月からデバイスをバージョンアップし、室内の温度や湿度を測定できるようにする予定です。睡眠環境を同時に計測することで、子供たちの体調不良の兆候などを発見・通知できるようにしたいと考えています。

取材を終えて

正直なところ取材させていただくまで、午睡チェックシステム系の製品はかなり多くの先発品があり、今さらどんな後発品が出てきても追いつけないのでは……と考えていました。しかし、保育施設という現場の「ホンネの声」をベースに開発されたベビモニには、爆発的な普及の可能性を感じます。実際、もし自分が保育施設で働くとしたら、本製品のような午睡チェックシステムの導入こそ、本当にありがたいと思います。ベビーテックは「AIをいかに活用するか」という時代に入っていることを、まざまざと感じました。

「ベビモニ」 公式ホームページ
https://www.babymoni.jp/