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子どもの体調データを共有し、みんなで子育てをする環境を作る「icuco」

本サービスのポイント
  • 子どもの午睡を見守るだけでなく、体温を測定して専用アプリで保護者に共有できる
  • 子どもの体調データを「可視化」し、パパとママのコミュニケーションも円滑にする
  • 保育園での利用を入り口に、「シッターサービス」や「家庭」での活用を目指している

現在、国内ベビーテック業界で最も注目されているのが、「午睡見守り」というジャンル。さまざまなメーカーが独自の方式で参入し、続々と全国の保育園に導入され大きな成果をあげています。そんな中、2020年4月から「午睡見守り」の分野に本格参入する「icuco」は後発組のサービスと言えるかもしれません。しかし、そこには先発組のサービスには無かった機能やメリット、子どもを育てる環境を大きく向上させる将来構想があったのです。BabyTech.jp編集部は「icuco(イクコ)」を開発した株式会社wkwk(ワックワック)代表取締役の柳瀬陽一さん(以下、敬称略)に取材を行い、同サービスの概要や開発の経緯、今後の展開について伺いました。


icucoを開発した柳瀬さん

(お話を伺ったのは)
株式会社wkwk 代表取締役
柳瀬 陽一さん

 

「子どもの体調の変化(体温)」をリアルタイムに保護者と共有できる

編集部:さっそくですが、「icuco」の概要と特徴について伺えますか?

柳瀬:「icuco」は午睡中の子どもたちの状態をモニタリングし、呼吸をチェックすると同時に保育士さんの負担を減らせるようなサービスです。保育士さんは子どもたちの寝ている姿勢を5分に一回チェックしていますが、そんないわゆる「午睡見守り」業務をサポートするものですね。


午睡中の子供の睡眠姿勢や呼吸をチェック・記録してくれるicuco

柳瀬:ここまでは他社サービスでも行われている内容ですが、icucoが目指しているのは、子どもの体調をみんなで共有し、みんなで子育てをする環境を作ることです。そのためicucoのセンサーは睡眠姿勢や呼吸、心拍のチェックだけでなく、体温をモニタリングし、熱が高くなってくるとお知らせする機能があります。これにより保育士さんは、たとえば午睡している子どもの急激な体温上昇による引きつけ(熱けいれん)を防ぐことができます。また、子どもを預けている保護者もそれら子どもの健康情報は知りたいわけです。だから保育園に預けている間の睡眠時間や体温の変化を、スマホアプリを使って保護者の側でも見られるサービスになっています。

弊社調べでは、過去に保育園に子どもを預けているママにアンケートを取った結果、252人中、「体調」が気になるという方が191人もおられました。こういった結果からも、保護者が子どもの体調をチェックできるサービスの必要性を感じています。


保育園を利用する保護者が最も気にしているのは「子どもの体調」

編集部:保育園に預けている間の子どもの体調を、保護者が確認できるわけですか? それは非常に珍しい機能ですね!

柳瀬:体温が一定基準以上になると、保育園側は保護者に電話してお迎えをお願いしなければなりません。このサービスがあれば、保護者もリアルタイムに子どもの体調がおかしいことがわかりますから、保育園から連絡が来る前に心づもりをして、仕事の調整をすることもできるでしょう。また、お迎えに行った時に熱が下がっていたとしても、体温のデータが残っていますから納得感があります。icucoは世の中に受け入れてもらうための入り口として保育園の「午睡チェック」という切り口を選びましたが、あくまでも「子どもの体調をみんなで共有できるシステム」というところを重視しています。


icucoの専用アプリでは、保護者も子どもの様子を確認できる

編集部:icucoのセンサーを子どもたちがつけるのは、午睡の時間だけでしょうか?

柳瀬:そうですね。現時点でicucoを使って欲しい対象は、0歳〜2歳までの睡眠時間が長く、しかも自分で体調の変化を訴えることができない子どもたちです。ただ、午睡チェックでの利用はあくまで入り口であり、将来的には子どもたちが常につけていられるものに改良していきたいと考えています。

編集部:2019年6月の保育博で拝見したセンサーから、2020年3月の本格的なリリースに向けてデザインが新しくなったそうですが。

柳瀬:保育博の時点は実証試験段階でしたが、現在のセンサーはより薄く、取り付けやすい形状に改良しています。たとえば乳幼児の首は短く、胸元に取り付けるセンサーが当たりやすいため、厚みを薄くして気にならないようにしました。他にも小さな部品を子どもが飲み込んだりしないよう、取り付け用クリップをセンサーと一体化した形状に変更しました。


新しいデザインになったセンサー

編集部:SIDS(乳幼児突然死症候群)については、現在も相当な数が発生していますから、やはりこのような「見守りサービス」は欠かせませんね。

柳瀬:ここ数年の国内におけるSIDSによる死亡者数は、およそ100名前後で推移しています。ただ、SIDSは保育園でだけ起こっているわけではなく、一般家庭でも起きていますから、このようなサービスは家庭でこそ使って欲しいと考えています。しかし、現在まで使われてこなかったのは、センサー類の価格が高かったことと、SIDSの危険に関する知識が保護者に無かったからだと思います。たとえば子どもたちの中にはSIDSになりやすい、呼吸が浅い子どももいるのですが、なかなか親にはそれに気づく方法がありません。icucoを家庭で使ってもらえれば、そのデータを分析し、保護者に注意を喚起することもできるでしょう。将来的には、そんな健康に対する示唆・予測を提供したいと考えています。

 

「家庭目線の午睡見守りサービス」が生まれたのは、子どもの入院から

編集部:そもそもicucoの開発は、どういった経緯でスタートしたのでしょうか?

柳瀬:まずこのサービスを作ろうと思ったきっかけは、自分の子育て経験ですね。実は、2番目の子どもが3歳の頃に1ヶ月半くらい入院したことがありました。その病院では親が24時間ずっと付き添うことが求められ、その間はトイレも食事もお風呂もすべて、子どもが寝ているタイミングにしかできなかったのです。だから子どもが寝ている間にダッシュでご飯を食べに行き、またダッシュで戻ってくるということをしていたのですが、その間は子どもから目を離すことになります。だから寝ている間だけでも、常に無事な状態であることがわかれば安心できるのに……と思ったのが、icucoを開発したきっかけでした。

編集部:保育園のニーズを分析して……ということではなく、ご自身のご経験が土台にあったのですね。

柳瀬:もう1つのきっかけは、私が勤務していた愛知県のある機械メーカーで新規事業を立ち上げる社内コンペがあり、そこに応募して選ばれたプランがicucoでした。私はその機械メーカーで設計をしていたので物作りの経験はあり、それがicucoの開発につながっています。このコンペの結果から2018年5月に株式会社wkwkを設立し、さらに2019年には資本的に独立した、という流れになります。

 

数値化されたデータによって、「子どもの健康状態」をより深く理解できる

編集部:正式なリリースは今年の3月からとのことですが、実証試験はいつ頃から行われていたのですか?

柳瀬:2019年の6月、ちょうど昨年の保育博からですね。協力いただいている保育園の方からは、こういうサービスによって「子供のことをより分かってあげられる」という感想をいただいています。保育園の保育士さんによる保育には感覚的な側面、つまり「あいまいな部分」が多くありますが、icucoで数値データが見えることにより、「この子は今こういう状態なのね」と客観的に分かるのがいい、ということを言われました。また、icucoでは睡眠中に体温が上がってくるとお知らせが届きます。人間ではなかなか気付かない眠っている子どもの体調の変化が分かるのは非常に助かる、というご意見もありました。

編集部:たしかに寝ている子の熱が上がっている、なんていうことはベテランの保育士さんでも分かりそうにないですね。

柳瀬:また、私たちは代理店を通さずにicucoを直販しており、保育園の皆さまからの改善要望にはすぐ対応しています。これが非常に喜ばれ、それで本格的な導入が決まった、という例があります。保育園は一般的に代理店経由で物品を購入しているのですが、そのような場合、改善要望を出しても非常に対応が遅いという背景があるようです。また直販にしていることで、価格を抑えられるというメリットもあります。

編集部:御社のホームページで簡易見積もりを取ってみましたが、他社の午睡見守りシステムと比較して非常に安い印象を受けました。

柳瀬:保育園で使われる備品類の多くは、「補助金ありき」の価格設定になっていると思います。私たちが目指すのは「子育ての現場(=一般家庭など)」で役立つことであり、そこに補助金はありません。だから保育園以外の場所でも使ってもらえる価格にするため、さまざまな工夫をしています。

 

icucoのメインターゲットは「一般家庭」。健康データから病気の予測も?

編集部:最後に、これからのicucoの展開について伺えますか?

柳瀬:まずは、「午睡見守りサービス」として保育園で使って頂くところが導入になります。次の展開としては法人ではなく、一般の個人の方に使っていただきたいと考えているのですが、そのために一般の家庭で子どもの面倒をみる「シッターの皆さん」に使っていただくことを考えています。それにより一対一の状況で使えることが家庭に伝われば、たとえばママが子どもをパパに預けて出かける時や、子どもが熱で寝込んでいる時などに使っていただけるようになってくると思います。

編集部:一足飛びに家庭に導入するのではなく、「シッターの皆さん」に使っていただければ、ご家庭へのPRにもなりますね。

柳瀬:また、国内だけですと市場は大きくありませんが、海外に目を向けると保育園よりもシッターを利用する家庭の方が多かったりします。そういうところでの利用も視野に入れています。

編集部:先ほど伺った、icucoによる健康データの収集・分析、レポートについてはどのような展望があるのでしょうか?

柳瀬:体温、脈拍、寝ているときの姿勢、呼吸などのデータを収集し、子どもたちそれぞれの「通常の状態(=パーソナルデータ)」を作成し、提供したいと考えています。それぞれの子供たちについてパーソナルデータがあれば、いつもと違う状態になった場合に検知し、お知らせするサービスも可能になると考えています。さらに数多くの子どもたちのデータを分析すれば、子どもが熱を出すときの兆候や、地域でインフルエンザが流行する兆候を捉えることもできるかもしれません。そんな病気・体調不良の予測を、将来的には機械学習を活用して取り組みたいと思っています。また遠隔医療サービスを提供する会社と提携し、icucoで異常が見つかったら、その子どもと遠隔医療サービスにつなぐ、といったことも検討したいですね。


「icuco」の未来像について語る柳瀬さん

 

取材を終えて

すでに午睡見守りサービスは「マット方式」や「センサー方式」、「カメラ方式」など、さまざまなシステムが販売され、新しい切り口をつくるのはなかなか難しいのではないかと考えていました。しかし、今回の取材で「子どもの体調データを子育てに関わるみんなで共有する」というicucoのコンセプトを伺い、1歳半の子どもを保育園に預けている親として非常に興味を持ちました。また、これからの日本でますます利用者が増加するであろうベビーシッターサービスでも、このシステムは安心感をもたらしてくれるのではないでしょうか。小さな子どもを持つパパ・ママに絶大な支持を受けそうな本サービスから、今後も目が離せません。

「icuco」公式ホームページ
https://icuco.wkwk-c.com/