- cocolinは、専用の肌着にトランスミッターを取り付け着用することで、子どもの正確な体温や心拍数などの変化を知らせてくれるサービス
- 開発を行っている株式会社キムラタンは、老舗の幼児向けアパレルメーカー。着心地のよい肌着でストレスゼロ
- 正確なデータ採取とアラートによるプッシュ型の通知で、保育士さんの負担を軽減するとともに、乳幼児突然死症候群(SIDS)の予防につながる
子どもたちと接し、その成長と安全を見守る保育士さん。小さな体で体調が変わりやすい子どもたちの安全管理は、仕事の中でも重要度が高いものです。そんな保育士さんの仕事をテクノロジーの力でサポートするのが今回ご紹介する「cocolin(ここりん)」です。見た目では分からない体温や心拍数の変化をいち早く察知し、アラートを出してくれます。そこで今回は「BabyTech® Award Japan 2021」の「安全対策と見守り部門」で見事、大賞を受賞したcocolinの魅力について、開発を行っている株式会社キムラタン・ウェアラブル事業課に所属する幸田則夫さんと、嶋澤宏信さん(以下、敬称略)に取材を行い、cocolinのコンセプトや開発の経緯、今後の展開について伺いました。
(お話を伺ったのは)
株式会社キムラタン
ウェアラブル事業課
幸田則夫(こうだ・のりお)さん
嶋澤宏信(しまざわ・ひろのぶ)さん
子どもたちのバイタルデータで安全を守る
編集部:本日は、よろしくお願い致します。さっそくですが「cocolin」のコンセプトについて教えていただけますか?
幸田:cocolinは、ウェアラブルIOT技術を用いて子どもたちの体調不良を未然に察知する、全日型の園児見守りサービスです。午睡を含めた、登園から降園まで、お子さんの体調を把握し、問題があればアラートで知らせてくれます。
編集部:午睡のタイミングなどは、保育士さんが5〜10分毎に子どもの様子をチェックしていると思いますが、それとcocolinをあわせることで、どんな見守りが実現するのでしょうか?
幸田:一言でいえば、cocolinを使うことで、子どもの目に見えない体調変化を察知してくれます。具体的には、子どもの「心拍数」「体温」「加速度」などを把握するセンサーが搭載されており、「体調不良」「ストレス」「体動」「うつぶせ」の見守りをして、何か問題があればアラートを出してくれる仕組みになっています。
編集部:たしかに、心拍数や体温、一定時間内での身体の動きは、見ただけだとわかりませんもんね。
幸田:定点観測でなく、登園から降園といった一定時間のデータを取ることで、その子の急な体調の変化やストレスの継続時間に気づきやすくなるのもメリットの一つです。乳幼児などのお子さんで怖いのが、乳幼児突然死症候群(SIDS)と呼ばれるものです。これは、何の予兆もなくこれまで元気だった子どもが睡眠中に亡くなってしまうもので、乳児期の死亡原因としては第3位にあげられ、まだ原因がはっきりと解明されておりません。
編集部:それは、心配ですね。
幸田:一説によると、赤ちゃんの胎児がえりのようなものだとも言われています。温かい室温のなかで、うつぶせの姿勢でいる状態はお母さんのお腹のなかに近い状態なんです。お腹の中にいるときは、呼吸する必要もないので、無呼吸の状態に陥ってしまうとも言われています。乳幼児は、体温の調整機能が成人に比べて、うまくできないので、こまめな体温の把握が必要です。また、それとあわせて、うつ伏せ状態になっていたら、すぐに仰向けにしてあげることが重要になってくるのです。
編集部:ありがとうございます。体温の変化を計測しつつ、うつ伏せのアラートをすぐに出してくれるところも、保育士さんたちにとってありがたい機能なのですね!こういったデータをしっかり計測するために、ウェアラブルのアイテムにされたのでしょうか?
幸田:はい、ストレスなく肌着に装着できるので、体温や心拍数も正確に取れますし、午睡姿勢の誤検知もなくなります。
編集部:なるほど!cocolinの使い方や仕組みについても教えていただけますか?
幸田:使い方は簡単です。スマートウェアの肌着を着用いただき、そこにトランスミッターと呼ばれる計測デバイスを取り付ければ完了。あとは、タブレットに各園児のデータが反映されます。
編集部:とても着心地が良さそうな肌着ですね。
幸田:はい、実は弊社は創業から100年近く、幼児向けのアパレル事業をしておりまして。採用している肌着は弊社の「愛情設計」と呼ばれるラインの縫製仕様(フラットシーマ加工)を採用したものでして、縫い目がフラットでごろつきがなく、生まれたての赤ちゃんを包み込むような優しい肌ざわりが特徴です。
編集部:それは安心して着用できますね!
見えない部分がわかることで、保育士さんの行動も変わる
編集部:ここからは、cocolinが現場でどのように役に立っているか、具体的なお話をうかがっていけたらと思います。cocolinで体調不良が未然に防げた例がありましたら、教えていただけますか?
幸田:よくあるものですと、夏場のお散歩などのタイミングに、体温が上がってしまった子がいたため、早めに切り上げ保育園に戻ったというものや、ストレスアラートを見て、おむつの替え忘れがわかったといったケースですね。あとは、いつもは元気なのに土曜日だけストレスアラートがでる子がいて、その理由を探ったところ、土曜日は園に来ていない子が多く、話せる子が少なくてストレスを感じてしまっていることがわかり、保育士さんがいつもより多めにコミュニケーションを取るようにしたという園もありました。
編集部:cocolinのアラートをもとに、保育士さんの対応が変わり、リスクの回避やストレスの解決ができているところが良いですね!
幸田:そうですね。他にもcocolinを導入いただいた保育園の先生からは、「一日を通しての体調の変化がわかるので、保育が充実する」「(cocolinを使うことで)二重チェックなど、現場の声かけが増え、保育士同士のコミュニケーションが活発になった」というお声もいただいています。また、cocolinで気になる点があったら、それをお母さんやお父さんにも伝えることが出来るので、保護者の方とのコミュニケーションや子ども安全性が上がったというお話も聞きますね。
編集部:ありがとうございます!cocolinの情報があるから、次の一手が打てるのですね。ちなみに、cocolinという名称には、どんな意味が込められているのでしょうか?
幸田:2つの意味を掛けているのですが、一つは「心」、つまり心臓のバイタルをとるという意味です。もう一つは、子どもは自分の体調の変化に気がつかなかったり、気がついてもそれを大人に伝えたりすることは難しいですよね。そんな子どもたちの状態を可視化してあげることで、「心と心をつなげたい」という思いを込めて名前をつけました。
ITの力で、保育士さんの負担を軽減したい
編集部:cocolinの開発経緯についても、教えていただけますか?
幸田:はい、数年前になるのですが、保育園不足にたいしてなにか出来ることがないかと、弊社で保育事業を立ち上げたんです。これまでも、保育士さんの業務についてはなんとなくどんなものかは把握していたのですが、実際に自分たちでやってみてその大変さに愕然としたんです。
編集部:どのような部分が大変だったのでしょうか?
幸田:お昼ご飯のあとの「午睡」といわれる、お昼寝時間ですね。5分ごとの子どもの様子をチェックして記録をとり、その合間にお母さんへの連絡帳、イベントのための制作や飾り付けなど、自分たちの休みを取る時間なんてほとんどないんです。その状態を知った代表が「自分たちの事業で何かできることはないか?」と考えて生まれたのがcocolinというわけです。
編集部:開発にはどれくらいの時間がかかったのでしょうか?
幸田:約1年半ですね。お昼寝のチェック時間や、お昼寝の向きなどは園や都道府県ごとに違いが合ったので、そこをどうカバーするかと言うのが課題でしたが、「見たままで今の子どもの状態がわかって、(必要であれば保育士さんが)アクションを取れる」アイテムを作ろうとなり現在の形になりました。もちろん、その過程で沢山の保育士さんに使いやすさなどを見てご意見をいただき、改良を重ねました。
編集部:そんな経緯があったのですね。cocolinが多くの保育士さんに支持される理由がわかった気がします。
対象を広げて、もっと多くの見守りに繋げたい
編集部:最後に、cocolinの今後の展開について教えていただけますか?
嶋澤:現行のアプリを検証して、さらなるブラッシュアップをしていけたらと考えています。また、コロナで在宅ワークが増えた一般家庭さんからも、「我が子を見守りたい」といったお声をいただいておりまして。そういったところにも、例えばお母さんとcocolinの二重で見守りをできるシステムなどを提供していけたらと考えております。
幸田:午睡の見守りをする年齢を幼児だけでなく、もう一段階上の年代の子どもたちや、人間だけにとらわれず、動物のストレスを測定し、ストレスを掛けない育て方などに生かしていくのも良いと考えています。
嶋澤:最終的には、cocolinを通じて、SIDSでなくなる子どもがいない社会を作っていけたらと考えています。
編集部:本日は、どうもありがとうございました!
取材を終えて
身体の機能が未熟なため、体温調節が難しく、少しのことで体調が変わってしまうことが多い子ども。今回のお話を聞いて、「何かあってからでは遅いから、起こる前に未然に防ぐ」というcocolinのコンセプトの重要性を改めて感じました。終日モニタリングをしてくれるので、子ども一人一人の普段の状態を把握し、問題があったらすぐに知らせてくれるシステムは、保育現場だけでなく、学校や家庭でも多くの人に求められるものだと思います。今後のcocolinの進化から目が離せませんね。
「cocolin」公式ホームページ
https://coco-lin.jp/
(終わり)
取材・執筆:立岡美佐子(たておか・みさこ)
IT企業から、編集・出版業界に転職。現在は、フリーランスの編集者兼ライターとして旅やグルメ、ソーシャル系など幅広い分野で編集や執筆活動を行っております。
大事にしているのは「価値のある情報を、読者に面白く、わかりやすく伝えること」。
これまで『TRANSIT』『FRaU』『メトロミニッツ』など多数の雑誌制作に携わってきました。
ベビーテックは、「子どもの頃にこんなサービスや商品があれば!」と思うものとの出会いばかりで、毎回刺激をもらっています。趣味は、旅行と料理と合気道。