— 下記はプレスリリースからの内容です —
株式会社エムティーアイが運営する、妊娠・出産・育児に関する悩みをママ同士で相談できるアプリ『ルナルナ ベビー』は、2019年11月より東京大学大学院医学系研究科精神保健学分野の西大輔教授らのグループが実施する「全自動化インターネット認知行動療法による妊娠うつ病・産後うつ病の予防」(以下、「本研究」)に協力しており、本研究の成果(以下、「本論文」)が「Psychiatry and Clinical Neurosciences」に掲載されました(日本時間 2022年8月12日公開)。
本研究では、東京大学大学院が開発したインターネット認知行動療法(以下、「iCBT」)のプログラムを『ルナルナ ベビー』へ導入し、妊娠うつ病・産後うつ病の予防効果を評価しました。すべての対象者にiCBTの効果があるとは言えませんでしたが、妊娠16週から20週の時点で軽度のうつ症状や精神的苦痛がある人においては、妊娠中・産後のうつ病予防効果が認められたため、iCBTによって妊娠中・産後のうつ病を予防できる可能性が示されました。
【本論文のポイント】
- 娠16週から20週の人を対象に、iCBT群※1(2,509人)と対照群※2(2,508人)とで、妊娠中・産後のうつ病の発症に違いがあるかを調べた結果、両群に有意な差は認められませんでした。
- 妊娠16週から20週の時点で、精神的苦痛を測定する質問紙K6※3の得点が5点から8点だった人に関しては、iCBT群の方がうつ病を発症する人が少なく、うつ病発症予防効果が認められました。
- 軽度のうつ症状や精神的苦痛を感じている妊娠中期の妊婦に対して、iCBTのプログラムが有効である可能性があります。
【本研究の背景・目的】
妊娠中・産後のうつ病は母子双方に与える影響が大きく、妊娠期からの予防が望まれます。対面での専門家による予防介入は人的資源の観点から容易ではなく、iCBTに期待が集まっていましたが、これまで妊娠中・産後のインターネット認知行動療法に関してはエビデンスが不足していました。
そこで本研究では、全6回(1回あたり5分から10分)で完了する、妊婦向けのiCBTプログラムを開発し、妊娠中・産後のうつ病予防効果を検討することを目的としました。
【本研究の成果と意義】
本研究に参加の意思を示した5,128人の妊娠16週から20週の人のうち、過去1カ月にうつ病を経験した人とこれまでに双極性障害※4を経験した人を除外した5,017人に参加してもらいました。研究参加者をiCBT群(2,509人)と対照群(2,508人)にランダムに割り付け、妊娠32週時点と産後3カ月時点にうつ病を発症しているかどうかを調べました。
研究の結果、iCBT群では59人(2.35%)、対照群では73人(2.91%)の人がうつ病を発症しました。両群に有意な差は認められませんでした(ハザード比0.85、95%信頼区間0.61-1.20, p=0.362)。
一方、妊娠16週から20週の時点で精神的苦痛を測定する質問紙K6※3の得点が5点から8点だった人(iCBT群732人、対照群735人)に関しては、iCBT群の方がうつ病を発症する人が少なく(iCBT群10人、対照群28人)、うつ病発症予防効果が認められました(ハザード比0.38、95%信頼区間0.19-0.79, p=0.009)。
本研究は、軽度のうつ症状や精神的苦痛を感じている妊娠中期の妊婦に対して、本プログラムが有効である可能性を示しています。しかし、全体では両群に差が認められていないこと、iCBT群の2,509人のうち全6回のプログラムを完遂した人は37.2%であったことなど、有効性と実装の両方に限界があり、実装においてはこれらの点に注意する必要があります。
※1 iCBT群:研究参加者のうちインターネット認知行動療法を提供した群。
※2 対照群:研究参加者のうち何も行わなかった群。
※3質問紙K6:精神的苦痛を測定する6項目の自己記入式質問紙。複数のカットオフ値があるが、5点以上を軽度の苦痛、9点以上を中等度の苦痛、13点以上を重度の苦痛とする考え方がある。
※4 双極性障害:気分が高まったり活動的になる躁状態と、憂うつで無気力なうつ状態を繰り返す病気。
≪東京大学大学院医学系研究科精神保健学分野 西大輔教授のコメント≫
本研究は、軽度の精神的苦痛を感じている妊娠中期の妊婦さんが、インターネット認知行動療法を活用することで妊娠中・産後のうつ病を予防できる可能性を示しています。しかし妊婦さん全員に効果があったわけではありませんので、サービスなどに実装する際にはその点に留意する必要があります。精神的不調を感じられた場合はかかりつけの産婦人科や医療機関、公的な相談窓口へのご相談もご検討ください。
【掲載論文情報】
・掲載雑誌:Psychiatry and Clinical Neurosciences
・論文タイトル:The preventive effect of internet-based cognitive behavioral therapy for prevention of depression during pregnancy and in the postpartum period (iPDP): a large scale randomized controlled trial
・著者:Daisuke Nishi, Kotaro Imamura, Kazuhiro Watanabe, Erika Obikane, Natsu Sasaki, Naonori Yasuma, Yuki Sekiya, Yutaka Matsuyama, Norito Kawakami
★論文はこちら: https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/pcn.13458
エムティーアイさんのルナルナベビーは東京大学の研究に協力しているそうですが、その中でインターネット認知行動療法によって妊娠うつ、産後うつの予防効果が条件付きですが認められたとのことです。ルナルナベビーでは、9月15日より複数の機能で構成する「メンタルケア機能」を追加すると別途発表され、悩みを抱えるママをサポートしていくとのことです。
詳細をプレスリリースから見ていきましょう。