- 午睡時だけでなく、1日を通して子どもの健康状態をモニタリング
- 銀メッキ繊維を織り込んだ「スマートウェア」により、正確なバイタルデータが計測可能
- 心拍センサー、温度センサー、加速度センサーを組み合わせ、子どもたちを見守る
今回ご紹介する「cocolin(以下、ココリン)」は、「スマートウェア」と「見守りデバイス」を組み合わせた「ウェアラブル型見守りサービス」。午睡中だけでなく、登園から降園まで一日を通じて子どもたちの体調・ストレスを見守ってくれます。そんな同製品は「BabyTech® Award Japan 2020 powered by DNP 大日本印刷」で午睡見守りデバイス賞、「BabyTech® Award Japan 2021」の「安全対策と見守り部門」において、最優秀賞の大賞を受賞しました。そこでBabyTech.jp編集部はココリンを開発した株式会社キムラタンの嶋澤宏信さんと幸田則夫さん(以下、敬称略)に取材を行い、同サービスの概要や開発の経緯、今後の展開について伺いました。
(お話を伺ったのは)
株式会社キムラタン
ウェアラブル事業課
嶋澤宏信(しまざわ・ひろのぶ)さん
幸田則夫(こうだ・のりお)さん
登園から降園まで、1日を通して子どもたちの健康を見守り続ける
編集部:本日はお忙しいところ、大変ありがとうございます。さっそくですが、ココリンの概要と特徴について伺えますか?
嶋澤:ココリンは保育施設の多様化などに伴い、非常に多忙になっている保育士の方々をサポートすることを目的に開発されました。特に注力しているのが保育士の皆さんのミッションである「安全・見守り」の担保、「保育・教育」の提供をサポートすることです。実際のサービス内容は「登園時から降園時まで子どもたちを見守るソリューション」であり、このサービスを構成しているのが「スマートウェア」「トランスミッター」「専用アプリ」の3つになります。
まず、「スマートウェア」ですが、これは子どもたちが着用する肌着です。SSから4Lサイズまで7つのサイズを準備しています。ポイントは非常に導電性の高い特殊な銀メッキ繊維を織り込んだ生地を、胸の部分に縫製しているところです。そこで園児のバイタルデータを計測し、肌着の下部にあるポケットに入れたトランスミッターという装置を介して、専用アプリに子どもたちの情報が入っていくという流れです。
「トランスミッター」には心拍センサー、加速度センサー、温度センサーの3つのセンサーを搭載しています。このトランスミッターからBluetoothでiPadなどのタブレット端末にインストールした「ココリン専用アプリ」に情報が入り、そこで園児1人1人を見守ることができます。
編集部:今伺った銀メッキ繊維の部分で子どもたちの体温を測定しているのでしょうか?
幸田:いいえ、銀メッキ繊維の部分は子どもたちの心拍を測定するためのものです。体温はトランスミッターに搭載された温度センサーで測定しています。なお、温度センサーが測定しているのは体温というより、正確には「衣服内温度」といったほうが正しいかもしれません。これは子どもたちの身体と衣服のあいだの温度のことです。衣服内温度の適正値は一般的に32℃前後と言われています。しかし、特に乳幼児の場合は体温の調節機能が未熟なため、衣服内温度が環境温度や室内温度に大きく影響されます。
これが適正値を外れている状態が続くと、高体温や低体温状態になってしまいます。そこでココリンは衣服内温度を検知し、異常があれば熱中症になる前に保育士さんにお知らせしています。
編集部:銀メッキ繊維の部分が心拍を測定するためのセンサーになっているのですね。トランスミッターと銀メッキ繊維の部分は、どのように接続されているのですか?
幸田:トランスミッターをスマートウェアに取り付けるためのスナップボタンが、胸の銀メッキ繊維部分とつながる電極になっています。
嶋澤:ココリンでは心拍センサー・加速度センサー・温度センサーの3つのツールで子どもたちを見守るという形になります。心拍センサーは、装着したその瞬間から取り外すまで子どもたちの心拍を見ることができます。加速度センサーは主に午睡中の姿勢を計測します。仰向け・うつ伏せ・右向き・左向きなどの姿勢を検知し、専用アプリにその状況を表示・記録していきます。これは体動センサーも兼ねており、子どもたちが一定時間以上動きが止まっていることを検知するとアラートを発します。温度センサーは先ほど幸田が申し上げたように、衣服内温度を測定しています。2度以上の変動が見られたときは黄色でアラート、3度以上の変動は赤色でアプリ上に表示されます。測定しているデータやアラートは、タブレット端末で一覧できます。
さまざまなデータを総合的にモニタリング・解析し、SIDSのリスクを下げる
編集部:午睡見守りサービスはさまざまな製品が各メーカーから提供されていますが、ココリンの特徴はなんでしょうか?
嶋澤:据え置きのマット型センサー、ボタン型センサーを衣服に取り付けるタイプの製品は体動を測定・記録するなど、午睡時のみの見守りを行っています。一方、ココリンは午睡時の姿勢・体動だけでなく、保育園であれば朝の登園時間から降園時間まで、継続して心拍や衣服内の温度変化を見守ることが可能です。
たとえば、日中に遊んでいる際、直射日光によって熱中症の傾向が出てしまった時や、なかなか言葉をうまく発せられない年齢の子どもたちにお腹の痛みが出てきたりした時、また外部からの騒音などでストレスを感じている時なども、アラートを出すことが可能です。これは子どもたち一人一人の「ストレス値」を検出し、それを体調アラート・ストレスアラートとして専用アプリでお知らせするという流れになっています。
また、午睡見守りの目的はSIDS(乳幼児突然死症候群)を防ぐことですが、そのリスクを低減するためには「うつ伏せ寝を回避する」だけでなく、「着せ過ぎによる衣服内温度の上昇に注意する」「預かり初期のストレスを緩和する」といったことも重要だとされています。実際に欧米や国内での研究によると、保育園に預けた初期の段階に非常にストレスがたまり、そこでSIDSが発生する比率が非常に高いということが言われています。そこでココリンは心拍や衣服内温度、体動などを登園から降園まで、特に午睡の見守りに関してあらゆる角度からデータを検出してお知らせし、子どもたちの異変に保育士の皆さんに気付いていただく機能を実現しています。
幸田:少し補足させていただくと、これまでの研究でSIDSの発生は冬場に多いと言われています。その理由としては寒い冬場において室温を上げ過ぎたり、服を着せ過ぎたりすることで高体温やうつ熱を招くなど、いわゆる衣服内熱中症になりやすい環境をわざわざ作ってしまっているということです。熱中症になると深部体温が上がるだけでなく、呼吸機能の低下、ひどい場合は意識障害まで起こってしまいます。このような状況下においてうつ伏せ寝を見逃してしまった場合、SIDSの発症リスクが非常に高くなると言われています。ココリンは温度センサーと心拍センサーを利用した熱中症の傾向を捉えるアルゴリズムによって、熱中症の傾向がみられた場合、すぐに保育士の方にお知らせをすることが可能です。
編集部:「預かり初期のストレスの検知」というのは、具体的にはどの数値といいますか、どんなものがセンサーで読み取れるのでしょうか?
幸田:ココリンは心拍センサーを使い、自律神経の影響によって変化する心拍変動の値を解析することによって、交感神経と副交感神経の緊張度を測定しています。そして、この緊張度のバランスから子どもたちのストレスを検知しています。このストレス状態が一定時間かつ高ストレス状態が続いた場合、保育士の方にアラートを出す仕組みになっています。
また、この交感神経と副交感神経の値、そして心拍変動の3つの値から子どもたち一人一人のデータを蓄積し、それぞれ固有の健康モデルを構築しています。その前日までの健康モデルと当日の健康モデルを比較して、大きな変化が見られた場合にいつもと異なる体調の変化が見られるということで、これも保育士の方にお知らせしています。
実はアメリカの小児科学会で、SIDSによって亡くなった子どもたちの3分の1が保育園に預けられて1種間以内に亡くなっており、さらにその半数の子どもたちが預けられた初日に命を落としているという非常にショッキングな報告がありました。これはアメリカの小児科学会だけでなく、日本国内でも同様な傾向値が見られるという発表もあります。つまり、SIDSの原因はまだ分かっていないのですが、「預かり初期のストレス」も重要な要因ではないか……と考えられています。
そのような背景の中で、ココリンはSIDSで重要視されている要因の「うつぶせ寝」「冬場に多い熱中症」「預かり初期のストレス」の3つを同時に見守ることができるわけです。「うつぶせ寝」や「体動の検知」だけでなく、バイタルデータからSIDSに関係するストレスや熱中症というところまで捉えているところが、ココリンの一番の強み・特徴だと思っています。
独自開発の「スマートウェア」「トランスミッター」「アプリ」による大幅な利便性向上
編集部:利用されている方からは、どのような声が届いていますか?
嶋澤:実際に利用されている保育園の保育士の方からのコメントですが、「SIDS予防に役立つ」「体調を可視化し、保育士同士で共有できるので安心感が向上した」という声があります。また、ココリンを導入したことで午睡時に「誰々ちゃんがうつ伏せになっているよ」という声掛けが頻繁に行われるようになり、保育士さん同士のチームワーク向上につながったというご意見もありました。また、午睡チェックシートの作成が簡単になったことで仕事の効率が上がり、より保育に時間をかけられるようになったというご意見もあります。他には「ココリンは非常に取り扱いやすく、アプリの操作も非常に簡単ですぐに慣れることができた」という声が非常に多いのもうれしいところです。さらに保護者の方からのご意見として、「午睡中も安心」「一日中子どもの体調管理をしてもらえるので安心できます」といった声もありました。
編集部:実際に利用する流れとしては、各家庭でスマートウェアを着用して登園し、保育園でトランスミッターを取り付けるというイメージでしょうか?
幸田:おっしゃる通りです。各ご家庭にとっても今日の肌着は何を着て行かせようかと迷うことがなくなり、逆に喜んでいただけている声が多いようです。子どもたちはすぐに大きくなるので、1年ごとに当社が4枚セットを無償提供しています。そのため保護者の方における費用負担は、ほぼありません。
アパレルメーカーであり保育園運営会社だったことから、このサービスが生まれた
編集部:御社はもともとアパレルメーカーとのことですが、どのような経緯からこのような画期的な製品が生まれたのですか?
幸田:当社は3年ほど前に保育園を地元・神戸に設立し、現在は神戸と大阪で5つの保育園を運営しています。その保育園事業を続ける中で、子どもたちの安全と、保護者の安心感につながるサービスとしてココリンの開発に取り組みました。また、ここ数年保育士の人手不足が続く中、少しでも保育士の皆さんの負担軽減に繋げるため、保育士業務の負担軽減というところまで踏み込んだサービスになりました。
編集部:特に「スマートウェア」の開発で苦労された点などはございますか?
幸田:ベースとなった「スマートウェア」は大人用の製品でした。スポーツ選手が体調管理や最高のパフォーマンスを発揮できる状態を分析するために使われていたものを、乳幼児用に活用したわけです。最初に問題になったのは、子どもたちはゆったりした服を着がちですが、バイタルを測定するためにはしっかり胸に当たっていないとなかなかバイタルが計測できないという点です。そこで、ある程度ジャストフィットにするためにはどうしたらいいのかというところに苦労しました。また、乳幼児用の衣服なので、保育士の方や保護者の方が着せやすいようにする点にも、ご意見をいただきながら取り組みました。そのほか、トランスミッターを取り付けるポケットの位置や、縫い目がストレスにならないように特殊な縫い方をするなどの工夫をしています。これまでに何度もアップデートを繰り返し、現在提供しているスマートウェアは第6世代のものになります。
編集部:トランスミッターは電池式ですか?
幸田:充電式で3時間充電で24時間稼働します。
これからも同社の「スマートウェア」は進化を続けていく
編集部:最後に、今後の展開について伺えますか?
幸田:当社はこの事業に関して、非常に後発組であると認識しています。そこで後発組だからこそできることを考え、保育ICTの大手であるCoDMONさんといった保育園ICTサービスと連携することにより、さらに保育士の方々の利便性を高めていくような方向性で動いております。
編集部:スマートウェアの機能に、なにか付加されていくことはお考えですか?
幸田:先ほど「衣服内温度」の話をさせていただきましたが、その改善を狙って、ウェアの素材を変えたり、より汗を吸い取りやすく、快適に保育園生活を送ることができるような生地の開発を検討しています。
取材を終えて
午睡を見守るデバイスについては、さまざまな商品・サービスが提供されていますが、今回取材させていただいた「ココリン」は、まさにその決定版と言えるのではないか……と感じました。最近はアップルウォッチなど、ウェアラブルで身体の状態をモニタリングしてくれるデバイスが登場しています。しかし、本当は保育園のような生命に関わる現場でこそ、そのような機器が必要なのではないでしょうか。このサービスがさらに普及し、より安全で健康的な生活を子どもたちが過ごせる日が来ることを心から願いたいと思います。
「ココリン」 公式ホームページ
https://coco-lin.jp/