- ゲームを通じ、身の回りの社会や経済活動に対する子どもの興味が引き出される
- さまざまな仕事を疑似体験することで、親子のコミュニケーションが活性化される
- 企業にとっても効果的なブランドPRとCSR活動であり、持続可能なビジネスモデル
(お話を伺ったのは)
株式会社キッズスター 代表取締役
平田全広 さん
ヒントになったのは、自分の子どもが夢中になっていた「お仕事ゲーム」
編集部: さっそくですが、「ごっこランド」の概要を伺えますか?
平田: 「ごっこランド」はいわば、「手のひらの上で出来る職業体験」アプリです。自分の親の「仕事」や世の中で行われている「仕事」について、子どもたちが実際に見たり、学ぶ機会はなかなかありません。このアプリはスマホやタブレットで「さまざまな仕事を体験するゲーム」を遊んでもらい、子どもたちが「社会」や「働くこと」に興味を持つきっかけになることを目指しています。スポンサー企業に利用料を負担して頂くことで、その企業を題材にしたゲームを開発・運営し、利用者は無料で遊ぶことができます。
「ごっこランド」のメイン画面。実在の企業を題材に、30以上の仕事を体験できる
編集部: 非常にユニークなアプリですね。開発の発端を教えていただけますか?
平田: もともと私の息子が海外の「仕事体験アプリ」で遊んでおり、それを見ているうちに、もっとリアルに仕事を体験できるアプリを作れば、「実際にこの仕事をやってみたい」と、子どもたちは思うのではないか……そう考えたのが開発のきっかけです。
編集部: 息子さんはどんなアプリをやっていたのですか?
平田: 彼がやっていたのは、「部屋をお掃除するゲーム」でした。非常に面白い現象だと思いますが、それまではいくら「部屋を片付けなさい!」と言ってもダメだったのに、そのゲームをやるようになってから、自分から率先して部屋を片付けるようになり、さらには「掃除機をかけてみたい」とまで言い出したのです。だから私たちは「ごっこランド」について、子どもがゲームという「疑似体験」で「成功体験」を積み、「自分でもやってみたい!」という「リアルな衝動」に結びつくきっかけになることを一番に考えています。
子どもたちが「リアル(現実の仕事)」に興味を持つきっかけに
編集部: ゲームがリアル(現実社会)に結びつくのですね。
平田: たとえば、「ごっこランド」で製菓会社が提供しているゲームでは「ケーキのトッピング」を体験できるのですが、そのゲームをした子どもがおやつにホットケーキを出されると、自分でなにかしらトッピングをしたがり、しかもそうして自分でトッピングしたものを他の人にあげて喜んでもらって満足感を感じている、という体験談を頂きました。このように「さまざまな仕事を子どもたちが疑似体験」することと、「実在の企業ブランド」を結びつけた事例は「キッザニア」をはじめいろいろありますが、なかなか遠くて行けない場合も多いでしょう。それをスマホやタブレットで体験できることは、保護者の皆さんにも喜んでいただけるのではないかな、と思います。
「ごっこランド」のプレイ画面。「本物の仕事内容」をリアルに再現
平田: それから、「ごっこランド」にゲームを提供している外食企業には「実際の店舗で仕事体験ができるイベント」を開催しているところがいくつかあるのですが、「ごっこランド」をプレイした子どもたちがそれらのイベントに参加したい!と、親に言ってくれる現象が起きています。これまでは「親がイベントを見つけて子どもを参加させる」のが普通でしたが、「子どもが自主的にイベントを発見し、親を動かす」という流れができたわけです。これはイベントに参加する上で非常に大きな「動機付け」になるでしょう。
編集部: そういうイベントの参加を子どもにせがまれて、断れる親はいませんね。
平田: 「ごっこランド」では「イベントの告知」と「参加申し込み」の両方が可能になっています。これにより企業の仕事体験イベントの参加申し込み者数が大幅に増えたり、イベント参加者の5割近くが「ごっこランド」経由だった、という事例も伺いました。私たちとしてはゲームを通じて、そんな「子どもたちの能動的なアクション」を引き出すことに、これからもチャレンジしていきたいと考えています。
「イベント申し込み」など外部リンクは「保護者の確認」が必要な仕組み
編集部: 子どもたちにとても良い影響を及ぼすゲームなのですね!
平田: このようなサービスはガラケーやパソコンしかなかった時代には不可能で、やはりスマホやタブレットが普及した今の時代だからできることだと思います。「ごっこランド」にゲームを提供している企業の皆様も、子どもたちに直接情報が届けられる「ブランディング面、マーケティング面の効果」だけでなく、「職業体験」を通じて子どもたちの成長をサポートする「CSR活動の一環」と考えておられます。
「子ども向けゲーム」だからこそ、こだわるべき部分がある
編集部: 「ごっこランド」のゲームの開発は、どのように行われるのですか?
平田: 「知育要素」や「子どもの満足感・達成感」を盛り込むため、ゲームの内容にはとことんこだわっています。そのため当社ではゲームの最初のバージョンができたら、必ず子どもたちに遊んでもらい、「どこで面白くなさそうにしているか」「どこでホームボタンを押してゲームをやめているか」などを観察します。私たちが思う以上に子どもたちの感じ方・動きは大人と違いますから、この「子どもテスト」で徹底的にゲームを改修するステップは欠かせません。そのため、私や社員の子どもたち、また当社の周辺にお住まいのお子さんなど、さまざまな方たちにモニターとして協力頂いています。
編集部: 「ごっこランド」の各ゲームの開発期間はどれくらいですか?
平田: テストプレイと改修期間だけで、1ヶ月から2ヶ月はかけています。「子ども向けだから簡単な内容でいいだろう」という感覚ではダメで、「もう一度やってみたいという気持ち」や「満足感・達成感」が得られるような工夫を突き詰めないと、通用しないと思います。
編集部: 「子どもの満足感・達成感」とは、どういったものでしょう?
平田: 「自分でちゃんとやった感」があるかどうかですね。たとえば「ケーキ作り体験」のゲームであれば、「そのケーキを『自分で作った』と思えるようになっているか」、ということです。具体的な手法の一つは「カスタマイズ要素を入れる」ことですが、全部カスタマイズできるようにすると今度はゲームが難しくなりすぎて、子どもがクリアできなくなってしまうので、そこのバランスを調整していきます。特に私たちが大切にしているのは「達成感」なのですが、ゲームをクリアしたときに子どもたちが「できたー!」と言って、親に見せに行くようなら「そのゲームには達成感が十分ある」と判断できることは、開発の過程で発見しました。
「ごっこランド」開発のこだわりについて語る平田さん
編集部: 「ごっこランド」というアプリに、「複数のゲーム」を入れたのは何故ですか?
平田: ユーザーが子どもたちですので、ゲームアプリを別々に開かなければならないと、「いろいろなゲーム(仕事)」を見て回ることが難しくなってしまいます。一方、一つのアプリの中に複数のゲームが入っていれば、子どもは自由にアプリ内のさまざまなゲームを見て回ることができます。その結果、「アプリの容量が大きい」「動作が重い」というコメントも頂きますが、やはり子どもたちの「遊びやすさ」を優先していきたいと考えています。
子ども・保護者・企業、みんなが喜ぶ「ごっこランド」
編集部: 「ごっこランド」のダウンロード数はいかがですか?
平田: およそ310万ダウンロードほどで、人気キャラクターを使っていない幼児系のアプリとしては一定の評価を頂けているように感じています。また、2019年8月だけでも1500万回以上プレイされており、アクティブユーザーが多いのも特徴です。現在、毎月2つずつ新しいゲームを増やしており、このペースを続けつつ、ゲームのクオリティもしっかり保っていきたいと考えています。
編集部: 「ごっこランド」の利用者の感想はどのようなものがありますか?
平田: アプリをダウンロードするサイトでは5点満点で4点以上の総合評価を5年以上キープし、利用者の方からのレビューも1万件以上頂いています。面白いレビューとしては、「子どもが『いらっしゃいませ!』と言うようになりました」「歯医者さんに行ったら『ごっこランド』と同じだ!と言って、怖がらずに口を開けてくれました」といったものがありましたが、これは企業の方たちに監修していただくことで、ゲーム内の仕事内容が簡略化されていてもウソが無く、「達成感」「仕事の流れ」もリアルだということでしょう。その結果、ゲームという「疑似体験」から安心感が生まれたり、行動へのハードルが下がったと考えられ、これは「ごっこランド」の大きな特徴だと思っています。
編集部: レビューを拝見すると、どれも熱のこもったメッセージですね!
平田: 喜びのコメントは社員の励みになっていますし、「○○という企業のゲームも出して欲しい」と言うリクエストをヒントに、当社がその企業に営業に伺うこともあります。もちろん厳しいご意見もありますが、逆にそれらはアプリの改良に繋がります。
「ごっこランド」に寄せられたレビュー
編集部: このレビューは「宝の山」ですね。
平田: 営業と言えば、企業の担当の方のお子さんが「ごっこランド」をやっていて、それがきっかけで依頼いただく案件も多いです。そのような担当の方たちは「ごっこランド」をプレイする子どもの様子を知っているので、打ち合わせは非常にスムーズです。それから「ごっこランド」には飲食に関係する企業のゲームが多いのですが、これはやはりゲームを通じて「行ってみたい」「食べてみたい」という意欲が湧きやすく、企業側も効果を感じておられるためでしょう。ある製菓会社の看板を見た子どもが、「あ、この店知ってる! 俺の店!」と言った……という事例も伺っています。ゲームを通じて子どもたちが企業ブランドに愛着を持ち、保護者も含めて、よりコアなファンになってくれるわけです。
編集部: 子どもたちも保護者も、企業も喜ぶビジネスモデルと言えますね。「サービスを持続可能にする」という点で、とても大切なポイントだと思います。
イベントの開催や、より企業を知るための「子ども向け会社案内」も構想
編集部: 最後に、「ごっこランド」の今後の展開について伺わせてください。
平田: 私たちは受験勉強とは違う観点で、子どもたちが自分の好きなこと・得意なことを見つけ、将来につながるような流れを作り出したいと考えています。それを表現したのが、「子どもの夢中を作る」という当社のミッションです。このミッションに基づき、今後も「ごっこランド」については参加企業を増やし、子どもたちの選択肢を増やしていきます。それから、子どもたちに「仕事」や「働くこと」は楽しそうだ、というイメージをさらに持ってもらうため、企業と協力してキャラバン的に全国を回れるリアルな職業体験イベントを開催できないか……ということも考えています。
また、働いている人たちのリアルな気持ちは「ごっこランド」というゲームでは見えない部分なので、そこをフォローするために「子ども向けの会社案内」を、数社と協力して実験的に作成する予定です。これは「ごっこランド」の中で読むことができ、働いている人たちの声や企業活動の骨子を入れていきたいと考えています。また冊子として印刷し、その企業の社員の子どもたちにも配布できたらいいな……ということも構想しています。
<取材を終えて>
スマホやタブレットでゲームに夢中と聞くと、なんとなく不健康そうなイメージを持っていましたが、「ごっこランド」は世の中の「仕事」に興味を持ち、自分の好きなことや得意なことを見つけるきっかけになると伺って、非常に感心しました。実際、このゲームで触れる「職業体験=仕事」を通じ、子どもと保護者はさまざまな形でコミュニケーションをとれるのではないでしょうか。ぜひ、多くの子どもに体験してもらいたいと思います。
株式会社キッズスター 公式ホームページ https://www.kidsstar.co.jp//
「ごっこランド」紹介ホームページ https://biz.kidsstar.co.jp/