- 「紙の母子手帳」を補完するスマホアプリとして、さまざまな機能を搭載
- 特に役立つのが「予防接種のスケジュール管理」や「多彩な記録・データの管理」
- 「自治体の公式アプリ」として、現時点で全国190以上の自治体で採用されている
(お話を伺ったのは)
株式会社エムティーアイ
ヘルスケア事業本部 電子母子手帳サービス部 部長
帆足 和広 さん
コーポレート・サポート本部 広報室 マネージャー
織茂 千絵 さん
コーポレート・サポート本部 広報室
嘉山 智子 さん
スマホアプリに秘められた「さまざまな可能性」
編集部: 御社のアプリは「母子モ」だけでなく、「ルナルナ」が非常に有名ですね。
織茂: 当社は2000年に、女性の健康情報サービスの草分けである「ルナルナ」をスタートさせています。そして「ルナルナ」で培ったノウハウを生かし、2012年にヘルスケア事業部を設立し、本格的にヘルスケアの分野に参入しました。
編集部: 「ルナルナ」は出産前、妻も使わせて頂きました。
織茂: 「ルナルナ」は累計1400万ダウンロード(2019年7月時点)と、非常に多くの方に長期間ご利用頂いています。現在では、「ルナルナ」に蓄積されたビックデータを活用し、独自の排卵日予測や妊娠確率の高い日をお知らせするなど、妊活をサポートする機能も強化しています。また現在は、4つの自治体と連携して、妊娠を望む夫婦のサポートも行なっています。
全国の自治体で利用が始まっている「母子モ」
編集部: 妊娠したら、今度は「母子モ」が使われるわけですね。
帆足: 母子手帳アプリ「母子モ」は、既存の「紙の母子手帳」と併用していただくコンセプトのアプリです。「紙の母子手帳」の詳細は自治体ごとに少しずつ異なりますから、市区町村に導入していただいている「母子モ」は自治体ごとのカスタマイズが可能です。現時点で全国にある1741の自治体のうち、1割を越える190以上の自治体に導入いただいています。
編集部: 自治体が「母子モ」を導入するとは、具体的には……?
帆足: 自治体から当社に料金を支払っていただき、公式に「母子モ」を「自治体のアプリ」として住民の方に配布する形態です。「母子モ」をベースとした、自治体独自の名称を付けたアプリにすることもできます。
織茂: たとえば千葉県船橋市では「ふなっこアプリ」、兵庫県尼崎市では「あまっこすくすくアプリ」という名称が付けられました。
編集部: 「母子モ」を導入する際、自治体独自の名前をつけるメリットはなんですか?
織茂: 育児をサポートするスマホアプリを利用される方は、妊娠・出産のタイミングでいろいろなアプリを探して使い始められることが多いのですが、「掲載されている情報は正しいものなのか」、「使い勝手はどうなのか」ということで、かなり迷われる傾向があります。そこで「母子モ」に自治体独自の名前を付ければ、自治体公式のアプリであることがわかりやすくなり、信頼感につながるということで自治体に提案しています。
帆足: このように自治体に導入された「母子モ」の機能は、主に3つあります。1つ目が「予防接種のスケジューラー」です。現在、子どもが受けなければならない予防接種は30回以上あり、これを保護者の方がもれなく管理するのは非常に大変です。さらに予防接種の接種タイミングには医療的な制約があり、病院側でチェックは行われますが事故やトラブルは防ぎきれません。「母子モ」の「予防接種スケジューラー」は、この複雑な予防接種のスケジューリングや、事故・トラブルの低減に役立てていただくことができます。2つ目は、紙の母子手帳の代わりに、さまざまな「データ・記録を残す」という機能です。3つ目の機能が「地域情報の配信」であり、自治体側からさまざまな情報を伝えることが可能になっています。
「母子モ」が持つ、スマホアプリならではの利便性
編集部: 「母子モ」の特徴は何でしょうか?
帆足: まずは「予防接種のスケジューラー機能」です。お子さんの発熱などで予防接種の予定を変更することは良くありますし、予防接種を無料で受けられる期間が限られている場合もあります。これに予防接種の医療的な制約まで加味して、しっかりとスケジューリングできるアプリは他になかなかありません。予防接種のスケジュールを紙で管理するのは本当に大変ですから、この機能は利用者様に「母子モ」を選んでいただいている特徴の1つだと思います。
編集部: 複雑なスケジュールを自動化してくれるのは、本当にありがたいですね。
帆足: それから、「情報配信機能」も大きな特徴でしょう。まず、アプリ利用者のデータに基づき、自治体が登録した情報を自動配信する機能があります。たとえば、アプリの利用者が「妊娠28週」になった時点で自治体主催の「パパ・ママ教室」のお知らせがアプリに自動配信される、などです。他にも「児童手当の現況確認」のような毎年繰り返されるお知らせも、アプリを使えば自動配信することができます。
もちろん対象者を絞り込んで連絡をお届けすることも可能です。最近は情報が多すぎると「見ない」という方も増えているため、その方に関係のある情報をピンポイントに送ることで、閲覧率の向上にもつながります。配信された各種イベントの予約も「母子モ」で可能になっており、アプリでイベント情報を配信した結果、イベントの参加率がそれまでに比べて2割向上したというデータもありました。
編集部: たしかに、スマホで「情報の受け取り」と「予約」ができるのは便利ですね!
帆足: また最近、自治体の方からいただいた感想に、「緊急時に連絡が可能であることは大きなメリット」というものがありました。たとえばゲリラ豪雨などで集団検診が中止になったら、これまでは個別に電話連絡するしかありませんでした。それが「母子モ」を使うことでタイムリーに一斉配信で中止連絡を伝えられました、ということです。
育児データを記録するという点に付いても、「母子モ」では「見える化(=データのグラフ化、写真の掲載)」を重視しており、たとえば妊娠中であればグラフ化することで体重の変化に気付きやすくなりますし、データを読み取って適切なアドバイスが表示される仕組みもあります。子どもたちの成長曲線についても、身長・体重だけでなく、肥満度のグラフも見られるようになっています。
さらに「母子モ」の場合、さまざまなデータがクラウドでバックアップできる点も重要度が増しています。実際、最近では風水害に被災された際に母子手帳を流されてしまった方や、自治体で保管していた紙の記録も消失してしまった事例があります。
織茂: 「母子モ」で記録していれば、スマホを紛失してしまった場合でも、IDとパスワードにてデータを復元できます。
帆足: 母子モには「できたよ記念日」というメニューもあります。これは子どもが「つかまり立ちをした日」「ママ、パパと言った日」などに写真を撮り、家族で共有できる「日記機能」です。紙による記録・連絡はかさばりますし、整理も大変ですが、「母子モ」であれば子どもが2〜3人いても簡単に整理・確認ができます。
織茂: 予防接種などのお知らせを、子ども別にプッシュ通知することも可能です。また先ほどの日記機能には、子どもの標準的な発達の目安がわかるアドバイスも表示されます。
編集部: 紙の母子手帳にはない、さまざまな機能があるのですね。
「共働き」・「孤育て」の時代に欠かせない情報共有ツール
編集部: 利用者の感想はどのようなものが寄せられていますか?
帆足: 「使い勝手がよく、1つのアプリで子どもに関する全てのデータが管理できるので便利」「夫や自分の親とも子育て情報を共有でき、いろいろな目線で子どもを見守ることができる」などというコメントをいただいています。最近は母親が子育ての負担を1人で背負わされてしまう、「孤育て(=孤独な子育て)」が問題になっていますが、「母子モ」という情報共有ツールを使うことで「孤独感」が解消されました、という感想もありました。
織茂: ある自治体の担当の方に伺ったのですが、ある保護者の方が保健センターに相談に行った際に、母子手帳を忘れて子どもの身長・体重がわからなかったところ、「母子モ」にデータがあったのですぐに伝えることができたそうです。やはりスマホは常に持ち歩いているので、ちゃんと相談ができて良かった、というお話でした。
帆足: 父親が子どもを病院に連れていったときなどにも、「母子モ」はお役に立てると思います。「子どもの身長・体重」、「接種している予防接種の種類」など、なかなか把握できていないでしょうから……。
織茂: 共働き家庭では、特に情報共有が大切だと思います。ちなみに「母子モ」はアカウントごとに情報共有範囲を設定できるので、夫婦はここまで、祖父母に見せる情報はここまでというようにプライバシーにも配慮されています。
帆足: それから「母子モ」を導入された自治体からは、事務的な「問い合わせ」が減り、本来の重要な職務である対面での住民サポートに時間を投入できるようになった、という声をいただいています。さらに自治体の職員の方が「母子モ」の運用に手間取ることが無いよう、当社は専門スタッフを用意し、アプリの利用促進をサポートしています。その結果、導入後もスムーズに運用ができて良かった、という感想もいただきました。
もう一つ自治体の方から言われるのは、妊婦の方の多くは母子手帳をもらうと出産まで自治体に接触しないため、「妊娠中の母親」と「自治体」のつながりが薄くなることが問題になっているということです。そこで「母子モ」を使って情報を配信し、何かあれば自治体に連絡をください、といったアプローチをしているということでした。
「実証試験の結果」を受けて、根底からアプリのコンセプトを変更
編集部: 「母子モ」が開発された経緯を伺えますか?
帆足: 2014年、千葉県柏市の「柏の葉スマートシティ」というエリアで、当社の「hahaco(ハハコ)」というアプリを活用した産官学の共同実験を行ったのが発端です。このアプリは単純に「母子手帳を電子化すること」を目指したものでした。その実験の結果、保護者側は「育児日記や成長記録をスマホで管理したい」という要望が多く、自治体側は「情報を保護者に配信したい」という要望が強いことがわかりました。つまり、「紙の母子手帳をなくすこと」よりも、「育児関連の便利な機能を提供してほしい」というニーズが見えてきたのです。このニーズを元に作り直したアプリが「母子モ」であり、2015年の最初のリリースも千葉県柏市から始まりました。
関係者を連携させ、より良い子育て環境を作り出していくツールへ
編集部: 今後の「母子モ」の展開について伺えますか?
帆足: まずは、「母子モ」を提供する自治体を全国で増やしていきたいですね。現在、190以上の自治体に導入いただいていますが、目標としては1000自治体での導入を目指しています。現在、「母子モ」を利用されている方が引っ越しをされたり、里帰り出産をされたら、そこでは「母子モ」が導入されていなかった……という不便をなくすために、まずは多くの自治体に導入していただき、どこでも同じように「母子モ」を利用できる環境を整えたいと考えています。
そして、次のステップは「医療機関」との連携です。妊娠・出産・育児をしっかりとサポートしていくには医療機関、特に小児科病院と連携していくことが大切だと考え、現在、いくつかの自治体で実証試験を行っています。まずは予防接種に特化して、「予防接種のスケジューリング」だけでなく、「予約」までできるように進めています。このシステムを利用すると、ワクチンについているバーコードを病院側で読み込めば、「接種するワクチンの名称・ロットNo.」「対象者への接種の可否」「期限内の予防接種かどうかの確認」などを「母子モ」と連携して自動的にチェック・記録できますので、予防接種における接種間違いを確実に減らすことが可能になります。また予防接種の記録漏れも無くなるでしょう。これを一般の健康診断や診療データとも連携させ、さらには保育園や小学校のデータとも連携させていくことで、より安心・安全な子育て環境を提供したいと考えております。
<取材を終えて>
実際に子育てをしていると、痛感するのが大量の情報の整理がいかに難しいかということ。自治体や保育園からの連絡、病院での診察や予防接種、さらに子どもの成長記録が混在し、とても「プリント」や「ノート」では把握しきれません。ほとんど毎日が「忘れ物」や「探し物」との戦いといっても過言ではないでしょう。それらが全てスマホに集約され、スケジューリングも自動的にやってくれるとなれば、本当に助かります。今後、ますます普及してほしいアプリだと感じました。
「母子モ」公式ホームページ
https://www.mchh.jp/login