BTA2024受賞商品発表

保育園・幼稚園における「子どもの成長」を保護者と共有できる「おうちえん」

本サービスのポイント
  • 「プライバシー」が守られた環境で、簡単に動画を配信できるプラットフォームを提供
  • 新型コロナ感染拡大状況では、保育園・幼稚園と家庭の双方の危機克服に活用
  • アフターコロナにおいても、保育園・幼稚園と家庭の連携ツールとして期待

今春の新型コロナ感染拡大により、日本中の保育園や幼稚園が休園したのは記憶に新しいところです。あの時期は子どもを持つ多くの家庭が大混乱におちいりました。そんな保育園や幼稚園に通えない……という状況を少しでも改善しようと、さまざまな新しいサービスが全国各地でスタートしたわけですが、なかでも注目を集めたのが今回ご紹介するオンライン保育用動画配信サービス「おうちえん」。これは保育園・幼稚園の先生が作成した動画をご家庭に配信するだけでなく、保育園・幼稚園で開かれるイベントの様子などをライブ配信することもできるサービスです。BabyTech.jp編集部は同サービスを提供している株式会社スマートエデュケーションの日下部祐介さん(以下、敬称略)に取材を行い、サービスの概要や開発の経緯、利用した方たちの感想や今後の展開について伺いました。

 

(お話を伺ったのは)

株式会社スマートエデュケーション
取締役 CFO/Co-Founder
日下部 祐介さん

 

「プライバシー重視」と「誰でも使える」を両立させた「おうちえん」

編集部:「おうちえん」の概要と特徴について伺わせてください。

日下部:当社の主なサービスは、「こどもモード」という教育・知育アプリの配信と、「kits(きっつ)」という保育園・幼稚園向け教材の提供です。このうち「kits(きっつ)」は保育園や幼稚園でiPadを利用していただき、独自のICT教育を通じて子どもたちの自主性や創造性を育もうとするもので、「おうちえん」は実はこの「きっつ」の延長線上で生まれました。なお、「きっつ」は学校のテスト対策のようないわゆる「お勉強」ではなく、過去に「情操教育」と呼ばれていたような内容をiPadで楽しく学んでいける教材です。現在400カ所の保育園・幼稚園でご利用いただいています。


「きっつ」は保育園・幼稚園で利用される

日下部:さて、「おうちえん」を作るきっかけとなったのは新型コロナの感染拡大を受けた、「きっつ」を利用されている保育園・幼稚園からのSOSでした。今年の3月末〜4月上旬にかけてのことです。新型コロナで休園となり、保育園・幼稚園と子ども・保護者が切り離されてしまった状況をなんとかしたい……ということで、「オンラインで保育ができる方法はないか」「ご家庭に保育園・幼稚園側から情報を届けたい」などの相談を多数いただきました。そこで当社では、「安心・安全かつ簡単な操作で保育園・幼稚園で撮影した動画を配信できるサービス」を作ろう、という動きになったのです。

編集部:それだけ伺うと、「YouTube」を使っても良いような気がしますね……。

日下部:私たちも最初はそういう提案をしたのですが、保育園・幼稚園の皆さまは、YouTubeでは動画が全世界に配信されてしまいかねないという先生がたのプライバシー問題を強く懸念されていて、使えないということだったのです。そこで「おうちえん」はパスワードで守られたクローズドな環境で、撮影した動画を保護者のご家庭に配信できるだけという、いわば「保育園・幼稚園専用のYouTube」という内容でスタートしました。保育園・幼稚園からのSOSを受けての突貫工事で、リリースまでだいたい2週間くらいでしたが、その反響は思いのほか大きく、利用者数は2020年9月現在までに800園を超えています。

編集部:「きっつ」が5年で400園に普及したのに比べると、「おうちえん」は半年足らずで800園以上とは爆発的な勢いですね!


「おうちえん」のメニュー画面


「おうちえん」にアップされた動画の一例

日下部:アプリではなく、パソコンでもスマホでもタブレットでも使える「ブラウザ(クローム、サファリetc)」ベースのサービスだったのが良かったのかもしれません。ITリテラシーの高いご家庭ではAmazon FireTVを使って、ご自宅のテレビでご覧になられているケースもあります。

編集部:ちなみに、リリース当初はライブ配信機能がなかったのですか?

日下部:そうですね。ライブ配信はサーバー負荷が大きいので、今年8月のサービス有料化と共に導入しました。

 

変化・発展していく「おうちえん」の利用方法

編集部:先日、都内の幼稚園が新型コロナ感染拡大により延期されていた入園式を実施し、その様子を「おうちえん」でライブ配信した……という新聞記事を拝見しました。

日下部:当日は保護者の方の視聴者数も100人以上となり、非常に関心が高かったようです。これは幼稚園におけるイベント開催で、「密」を避けるために利用していただいた一例です。


「おうちえん」の撮影風景

編集部:このような入園式のライブ配信のほか、「おうちえん」はどのように利用されているのでしょうか?

日下部:新型コロナによる休園期間は、たとえば各保育園・幼稚園の先生が登場して「手遊び歌」や「ハサミの使い方」を教えるといった「先生が語りかける動画」が主に配信されていました。しかし、休園期間が終わってからは「おうちえん」は保育園・幼稚園で行われていることを保護者に伝える上で非常に便利なツールだという認識が広まり、使われ方が変わってきました。パスワードで守られたクローズドな環境で「子どもたちのプライバシー」が守られているため、保育園・幼稚園での子どもたちの活動の様子を撮影する動画が増えています。保育園・幼稚園からは「こういうサービスを待っていた!」というお声もいただいています。

編集部:私も2歳の娘がいますが、そういう動画は是非、見てみたいですね!

 

「よく知っている人ばかりが出てくる動画」という圧倒的な強み

編集部:「おうちえん」の利用者からは、どのような感想が届いていますか?

日下部:まず、新型コロナ感染拡大の状況下で、保育園・幼稚園の先生には「子どもたちに何もしてあげられないのがストレス」ということで、元気をなくされていた方が大勢いらっしゃったそうです。そこに「おうちえん」というツールを使えば子どもたちに自分たちの声が届けられるということで、みんな元気を取り戻してくれました……という園長先生がたの声をたくさん頂きました。

編集部:それは素晴らしいことですね!

日下部:ご家庭からは、家で退屈している子どもたちに顔をよく知っている保育園・幼稚園の先生の動画が届いたのでとても喜びました、助かりました……というお声をいただきました。YouTubeなどですと、望ましくない関連動画を見てしまうことも少なくないので、普段からよく知っている保育園・幼稚園の先生だけが出てくる「おうちえん」は安心して見せられました、というお話も伺っています。熱心な先生がたはどんどん動画の撮影・編集が上達し、「動画撮影NG集」「体育の先生の跳び箱チャレンジ動画」などを作られたりもして、さらに保護者や子どもたちは楽しめたようです。

編集部:それらはまさに、「おうちえん」というプラットフォームがあったからこそですね。


家庭で「おうちえん」を楽しむ親子

日下部:それから、登園が再開し始めた6月くらいにいただいた声ですが、小さな子どもたちは保育園・幼稚園の先生の顔を1ヶ月も会わないと忘れてしまうらしく、久しぶりに登園すると「誰だろう?」と混乱してしまうそうです。しかし、「おうちえん」で先生がたの映っている動画を家で見ていたことで、登園再開の初日に人見知りで泣く子が少なかった……というお話も伺いました。

編集部:たしかに私の娘が通っていた保育園で、保育園が再開したときに号泣していて、「慣らし保育からやり直しだわ……」と言われているお子さんを見かけました。

日下部:ライブ配信については重複になりますが、「密」を避ける方法として非常に助かっているという声をいただいています。イベントに参加できる人数をご家族で1人だけに絞るという方法を取られる場合でも、「イベントの様子はライブ配信します」「あとから録画を見ることもできます」とお伝えすることで、スムーズにご納得いただけているそうです。また、「おうちえん」を使えば、今まで遠方でイベントを見に来ることができなかったご親族もイベントを見られますね……というお声もいただいています。

 

これからも「保育園・幼稚園と家庭の連携ツール」として発展させていく

編集部:「おうちえん」の今後の展開について伺えますか?

日下部:現在、「おうちえん」に「ドキュメンテーション」の機能を搭載する計画を進めています。「ドキュメンテーション」とは、保育園・幼稚園の先生がたが子どもたちの活動を観察・分析・記録し、その内容を「写真」や「コメント」を使って模造紙などにまとめたものです。これを園内に掲示して保護者にお見せしている保育園・幼稚園が最近増えているのですが、その作成支援と画面上で保護者に配信できる機能を「おうちえん」に持たせようとしています。「おうちえん」のドキュメンテーションは動画を使うことで写真よりもリアルな記録を取ることができ、さらに作成する先生がたの労力を軽減することもできると考えています。

編集部:たしかに、今の時代に模造紙に写真と手書きのコメントでまとめるのは大変そうですね……。ちなみに「ドキュメンテーション」には、どのような効果があるのですか?

日下部:たとえば「運動会」であれば、単純に運動会当日の様子だけを保護者の皆さんに伝えるのではなく、運動会までの練習の様子も「ドキュメンテーション」としてまとめることで、よりきめ細やかに子どもたちの「成長の過程」をとらえることが可能になります。今後、ドキュメンテーションの第一人者である神戸大学の先生と1年半の計画で共同研究を行うのですが、これからも保育園・幼稚園と保護者が一体となって子どもたちを育てるためのサポートツールとして、「おうちえん」を進化させていきたいと考えています。

 

取材を終えて

保育園・幼稚園での子どもの様子、さまざまな体験を通じた成長や発見、工夫の過程を知りたい!という欲求は、ほとんどの保護者が持つものだと思います。月に1回、数枚の写真が送られてくるだけでは物足りない……「おうちえん」はそんなニーズにぴったりハマるサービスではないでしょうか。取材しながら、私の娘が通う保育園でも「おうちえん」を導入してくれないかな……と思ったほどで、少子化により保育園・幼稚園が選ばれる時代には、かなり強力な差別化ツールになりそうだと感じました。今後の展開がますます楽しみなサービスです!

「おうちえん」紹介ホームページ
http://kdkits.jp/ouchien/

「ドキュメンテーション」に関する共同研究のニュースリリース
http://kdkits.jp/news/1264