- 残しておきたい赤ちゃんのさまざまな情報を、スマホで手軽に記録できるアプリ
- 記録したデータはグラフで簡単に「集計・見える化」され、成長や変化がよく分かる
- 利用者から集まったビッグデータを分析し、育児に役立つ各種アドバイスを提供
(お話を伺ったのは)
株式会社ファーストアセント 代表取締役CEO
服部 伴之 さん
「自分の子どもが生まれたこと」が、アプリ開発のきっかけに
編集部: さっそくですが、「パパっと育児@赤ちゃん手帳」の概要を伺えますか?
服部: 子どもが寝た時間、起きた時間、ミルクを飲んだ時間や量、ウンチをした時間や状態、また「初めて○○ができるようになりました」といった、さまざまな記録を取る「育児記録アプリ」になります。もともと私の妻が手書きで育児記録をつけていたのですが、それを見ていて「便利に記録できるアプリがあるんじゃないの?」と思ったのがきっかけでした。当時(2012年頃)はそのようなアプリがあまり無く、あったとしても使い勝手のいいものではありませんでした。たとえば、私からすれば「飲ませたミルクの量」を記録すれば、自動的に1日に飲んだミルクの量を集計してグラフ化してくれてもいいと思うのに、そういう機能を持つアプリはほぼ無かったのです。そんな風にデータを「見える化」できるアプリが無いなら、自分で作ろうと考えました。
赤ちゃんが飲んだ「ミルクの量」がグラフ化され、一目瞭然!
また、当時の妻は非常にストレスでイライラしており、1人目が生まれてから数年後に、「今考えると、産後うつだったかも」と言っていました。そこで育児の記録を「見える化」したら、子どもの状態がよく分かり、妻の不安も減るのではないかと思ったこともアプリ開発のきっかけの一つです。
最後に、「ビッグデータを活用すること」で育児について何らかの問題解決ができないかな、ということもアプリ開発当初から考えていました。私が大学院を修了して企業で研究していた事から、エビデンスの構築やデータのハンドリングには慣れていたので、それができれば社会的な価値を構築できるのではないか、と考えたのです。
記録したいメニューがアイコン化され、とてもわかりやすい
編集部: 奥様がつけられていた手書きの育児記録を先ほど拝見しましたが、大変細かくデータを記録されていたのですね。
服部: はい。でも、私の妻が特別という訳ではないと思います。実際に「パパっと育児@赤ちゃん手帳」をリリースしてわかったことですが、多くのお母さんはかなり細かく、高頻度で記録をつけられています。当初の想定では、アプリを利用する方たちは手の空いた時間にまとめて記録をつけると思っていたのですが、ほとんどの利用者の方は「ミルクを飲ませたタイミング」「オムツを変えたタイミング」など、ほぼ「リアルタイム」で記録をつけていました。そんな風に毎日、数十以上の「レコード(記録)」が取られたおかげで、アプリ上で子どもたちの生活リズムが良くわかるようになり、さらにそれをビッグデータとして活用し、さまざまなサービスを実現できるようになりました。
編集部: スマホを使って片手でリアルタイムに記録ができるのは、アプリならではのメリットですね。
服部: そうですね。「ノートに手書き」だった私の妻は、やはり手の空いたタイミングでまとめて書いていましたから。スマホアプリになったことで「記録すること」のハードルが下がり、より細かくデータが残せるようになったと実感しています。
アプリ最大の特徴である「ビッグデータ分析」と、その効果
編集部: 「パパっと育児@赤ちゃん手帳」と類似したアプリが最近は数多く登場していますが、それらとの違いはどういったところでしょうか?
服部: やはり「ビッグデータ分析」による各種サービスの提供だと思います。
編集部: 「パパっと育児@赤ちゃん手帳」というと、やはり「赤ちゃんの泣き声」で、なぜ泣いているのかがわかる「泣き声診断」が素晴らしいですね。
「赤ちゃんの泣き声」から「赤ちゃんの気持ち」を分析!
服部: ありがとうございます。もともとは「生後2週間から6ヶ月の子どもの泣き声」を分析したアルゴリズムを使用していたのですが、現在のバージョンは累計15万人以上のデータが集まり、より幅広い年代の赤ちゃんの泣き声を分析できるようになりました。
また、このアプリでは「夜泣きの頻度」を分析し、夜泣きが多い赤ちゃんについては「夜泣きアラート」という通知が出るようになっています。赤ちゃんが夜泣きすると、お母さんは睡眠時間が削られて、とてもつらい思いをします。しかし、自分の子どもの夜泣きの頻度が多いのかどうかは、よその家の赤ちゃんと比べられませんからわかりません。「夜泣きアラート」は、それを客観的な統計データとしてお母さんたちに示しています。具体的には、同年代の赤ちゃんの中で上位30%以上の頻度で夜泣きをしていると、「夜泣きアラート」が出るようになっています。
この表示のメリットは、それまで夜泣きについてお母さんに任せきりだった家庭で、コミュニケーションが生まれることです。実際、アラートが表示された6割の家庭で「うちの子どもは夜泣きが多いみたい」という会話が夫婦間で行われ、さらにその半分、全体で言えば3割のお父さんに行動変容が見られた、つまり夜泣きをしたら起きてミルクを作る、抱っこしてあやすようになった……というデータが得られています。
「夜泣きアラート」が「夫婦での子育て」をサポート
実は私は、一人目の子どもが生まれたときには「うちの子はあまり夜泣きをしないなぁ……」と思っていました。ところが妻によれば、本当は激しく夜泣きをしていて、非常に苦労していたそうです。このアプリをリリースして集計したデータを見ると、一目瞭然で「赤ちゃんは本当にたくさん夜泣きをしている」という事実を理解しました。そして「自分は子どもの夜泣きに気付かず寝ていたんだなぁ……」と、とても反省し、その懺悔の思いもあって、この「夜泣きアラート」という機能を作りました。この機能を使って、お母さんにはお父さんと交渉してもらいたい、ということですね。やはり男は「数字的な事実」を突きつけられると動きやすいものですから。
編集部: 「赤ちゃんの泣き声診断」はどういう経緯で開発されたのですか?
服部: これも私の経験なのですが、赤ちゃんが泣いている時の父親は、泣いている理由やどうしたら泣き止むのかがわからず、とてもストレスを感じています。これは当社のアンケートでも明らかで、新サービスのアイデアを募集した時に、赤ちゃんの泣き声の内容を「バウリンガル(犬の鳴き声を翻訳する玩具)」のように教えて欲しい、というものがよくありました。また、私自身も「赤ちゃんが泣いている理由」をぜひ知りたいと言う気持ちがありました。
さらにビジネス的に、会社としてどの分野の研究開発を行うか……という観点からすると、当社のように「大量の赤ちゃんの泣き声データ」を集められる企業は、世界的に見てもあまりありません。そして「画像のディープラーニング」と比べて、「音声のディープラーニング」、その中でも「言葉ではない音声のディープラーニング」の研究は事例が少ないので、世界的にみてもユニークなポジションを構築できるという考えがありました。また、やるならまだ誰もやっていない「未踏のもの」を仕事のテーマとして取り組みたいという気持ちも強く、それらが「赤ちゃんの泣き声診断」の開発に繋がりました。
「アプリ利用者の感想」がTwitterでバズったことも
編集部: 「パパっと育児@赤ちゃん手帳」 の利用者はどれくらいですか?
服部: おおよそ50数万人です。
編集部: 利用している方たちの声としては、どういったものがありますか?
服部: 「パパっと育児@赤ちゃん手帳」はアプリを立ち上げた画面に、記録したい内容に即したアイコンが表示されていますから、「とにかく記録しやすい」という感想は多いですね。また、「記録するイベント(たとえば授乳)」の「開始時間」と「終了時間」を入力できるので、とにかく細かくデータをつけたい方は、当社のアプリを選ばれることが多いようです。それから「赤ちゃんの泣き声診断」は他社のアプリにはない機能なので、これを重宝して使っている「お父さんの声」も多いです。一般的にお母さんは子どものそばにいる時間が長いので、なんとなく子どもの「して欲しいこと・伝えたいこと」がわかるようになったり、そもそも多少の泣き声には動じなくなっていきますが、お父さんはそういうことがわからない人が多いですし、泣き声に耐性もありません。だからたまに子どもを預けられて泣かれ、何かないか……と探した結果、私たちのアプリを使ってくださった、というケースをよく聞きます。
他には、「赤ちゃんの泣き声診断」で子どもの扱い方が変わった……という感想もありました。今までは泣いたら「とにかく授乳していた」のが、診断で「眠たい」という表示が出たので、背中をトントンと優しく叩いてあげたら、あっさり寝ましたとか。逆にいくら抱っこして背中をトントンしても寝なかったのが、「空腹」という診断が出たので授乳したらすぐに寝落ちした、という具合です。
さらにTwitterでは、「夜泣きアラート」を利用している方のツイートに、1万件以上の「いいね!」が付いたことがあります。この「夜泣きアラート機能」については、95%くらいの方が肯定的なツイートをしており、5%くらいの方がネガティブな投稿をしていたのですが、実際にツイートを見てみると、「こんな機能をつけられたら子育てを手伝わなきゃならなくなるから勘弁して欲しいなぁ」というお父さんのツイートだったというオチもありました。いずれにせよ、多くのお父さんはお母さんが赤ちゃんの夜泣きで眠れていないことを「過小評価」しています。「夜泣きアラート」で想像以上にお母さんたちが寝ていないことを知れば、もう少し優しくなれるでしょう。
「赤ちゃんの泣き声診断技術」から誕生する、新たなハードウェア
編集部: 御社の今後の取り組みについて伺えますか?
服部: 最近、経済産業省の「ものづくりスタートアップ・エコシステム構築事業」に、当社の取り組みが採択されました。これは当社の「赤ちゃんの泣き声診断技術」を搭載した「ハードウェアの開発」に対する補助事業となります。この装置を赤ちゃんの枕元に置いておくことで「夜泣きの検知」や「泣き声の分析」を自動で行えるようになり、普段と泣き声が違うかどうかもチェックできるようになります。
新しいハードウェアについて語る服部さん
編集部: スマホを使わなくても、24時間365日、いつでも赤ちゃんの泣き声をモニタリングできるわけですね!
服部: これは2020年1月にアメリカ・ラスベガスで開催される世界最大級の家電見本市(CES)に出展する予定です。また、この音声分析のアルゴリズムについては、海外のハードウェアメーカーから多数問い合わせを頂いています。それから水面下でもう一つ新たな取り組みをしていまして、こちらは来年4月頃に公表できると思います。
<取材を終えて>
実際に我が家の1歳になる娘の泣き声を「パパっと育児@赤ちゃん手帳」で分析したところ、かなりの確率で正解だったらしく、何度もスムーズに寝かしつけることができました。また「夜泣きアラート」という「ビッグデータ分析」で夫婦の育児協力が促進されることも、まさにベビーテックの理想だと感じました。赤ちゃんの枕元に設置できる「新たなハードウェア」の誕生が今から楽しみです!
株式会社ファーストアセント 公式ホームページ https://first-ascent.jp/
「パパっと育児@赤ちゃん手帳」紹介ホームページ https://papaikuji.info/